コミュニケーションの中で、言葉の役割はとても大きいものです。社交能力が試されると言っても過言ではないでしょう。

自分の思いをきちんと言葉で表現できる人、TPOをわきまえた話し方ができる人はとても魅力的ですね。
「いまさら聞けない」「間違っているかも」と言葉に自信がないのに、そのままにしている人も少なからずいらっしゃるのではないでしょうか。

「ビジネスシーン」はもちろん、「日常生活」「子供の学校行事」「地域でのつながり」など、様々な場面で言葉に配慮が必要な機会は多くあります。また、間違った言葉の使い方によって、相手を不快にさせたり、誤解を招くこともあります。そのようなことがないように、今回は、「言葉のマナー」について、改めて見直しましょう。しっかりとした言葉遣いができるようになると、いま以上に輝くあなたになれると思います。

敬語の基本  

敬語は「人を尊重する」「人を大事にする」という敬意の表現方法です。コミュニケーションを円滑にし、信頼しあえる関係を築くためにも、正しい敬語や適切な表現を身につけましょう。
また、敬語は「年齢差」「立場の差」「親疎の差」などを埋める調和語でもあります。その「差」の程度を的確に把握し、言葉を選択する力も必要です。
言葉は時代とともに変化し続けています。そして敬語は地域により多少の違いがあります。
すべての人が同じ使い方をすれば良いというわけではありません。
より豊かな人間関係を築く上でも、まずは基本をしっかり覚え、相手に自分の心が伝わるようにこの機会に見直していきましょう。

敬語の種類

みなさんも学生時代に学校で習ったと思いますが、敬語は大きく分けて「尊敬語」「謙譲語」「丁寧語」の三種類があります。2007年(平成19年)に文化審議会が答申した「敬語の指針」によって、現在の敬語は、「謙譲語Ⅰ、Ⅱ」に分かれ、丁寧語の一部が「美化語」として分かれたので、全部で五分類になりました。日常的に使用する際には、三分類で覚えておいても問題はないでしょう。

尊敬語(相手や第三者に敬意を表す言葉)

尊敬語は、相手や話題にのぼっている人の動作や状態を表現する際に、敬意をあらわすために使います。尊敬語には、二つの用法があります。

交替形式/別語形式(敬語専門の言葉に言い換える方法)

・「先生、○○に行きますか」⇒「先生、○○にいらっしゃいますか」
・「朝は、何を食べましたか」⇒「朝は、何を召し上がりましたか」
・「社長が、○○と言いました」⇒「社長が、○○とおっしゃいました」

添加形式(一定の言葉をつけ加える方法)

a.「お………です」「ご………されます」
・「お客様が帰りました」⇒「お客様がお帰りです」
・「先生は、出発しました」⇒「先生は、ご出発されました」
・「佐藤様が呼んでいます」⇒「佐藤様がお呼びです」
 「佐藤様がお呼びでいらっしゃいます」

b.「………れる」「………られる」「………される」
・「部長が行きました」⇒「部長が行かれました」
・「お客様が来ました」⇒「お客様がいらっしゃいました」
・「山田さんは山登りをします」⇒「山田さんは山登りをされます」
・「鈴木さんが出勤しました」⇒「鈴木さんが出勤されました」

謙譲語(自分や自分側の人がへりくだって尊敬の意を示す言葉)

謙譲語とは、自分または自分側の人(家族や同じ会社の人)の動作を他人や社外の人に言うときにへりくだって使う言葉。結果的に相手が高まります。「謙譲語Ⅰ」は、「伺う」「申し上げる」型で、「謙譲語Ⅱ(丁重語)」は、高める相手がいないパターンで、「参る」「申す」型です。(拙著、小社など) その他に、謙譲語にも日頃から、二つの用法があります。さらに「添加形式」は三つに分かれます。

交替形式/別語形式(謙譲専門の言葉に言い換えて使う方法)

・「私が取りに行きます」⇒「私が取りに参ります」
・「駅前にいます」⇒「駅前におります」
・「先生から聞きました」⇒「先生から伺いました」「先生から承りました」

添加形式(一定の言葉をつけ加える方法)

a.「お/ご………する」「お/ご………いたす」
・「私が送ります」⇒「私がお送りします」「私がお送りいたします」
・「スタッフが案内します」⇒「スタッフがご案内します」「スタッフがご案内いたします」

b.「………ていただく」「お/ご………いただく」(他人に何かをしてもらうとき)
・「先生に教えてもらいました」⇒「先生に教えていただきました」
・「お客様に待ってもらいました」⇒「お客様にお待ちいただきました」「お客様に待っていただきました」
・「社長に書いてもらいたいのですが」⇒「社長に書いていただきたいのですか」「社長にお書きいただきたいのですが」

丁寧語(言葉を丁寧に感じ良くする言葉)

話し手の丁寧な気持ちを直接表現するために用いられる敬語。言葉そのものが美しくなり、相手に与える印象も良くなります。

a.「です」「ます」
・「これから行く」⇒「これから行きます」
・「飛行機に乗る」⇒「飛行機に乗ります」
・「私の郷里は群馬」⇒「私の郷里は群馬です」

b.「ございます」
より丁寧な印象になるので、社外の人との会話や、心理的、社会的にある一定の距離をとる際に使用します。
・「美しい絵画ですね」⇒「美しい絵画でございますね」
・「山田です」⇒「山田でございます」

美化語

言葉を丁寧に美しくするために、接頭語の「お」「ご」「御(おん)」をつけます。例外もありますが、「お」は主に和語に、「ご」は主に漢語につきます。

和語(訓読みの言葉、もともと日本にあった言葉、大和言葉)

・お祭り、お手伝い、お天気、お話、お山、お手紙、お知らせ、お断り、お金、お酒 など

漢語(音読みの言葉、中国から伝来した言葉)

・ご祝儀、ご挨拶、ご褒美、ご注意、ご通知、ご連絡、ご住所、ご意見、ご利用、など

a.習慣になっていて、使わないと意味がわからなくなるもの、または意味が違ってくるもの。
・「おかず」「おやつ」「おかわり」「おはぎ」「おふくろ」「お辞儀」「お参り」「おしゃれ」

b.使わなくても意味は分かるが、状況により雑に聞こえるもの。
・「お金」「お酒」「お茶」「お化粧」「お米」「ご飯」

c.相手に使うと尊敬語になるもの。
・「お心遣い」「お洋服」「お名前」「お住まい」「ご教示」「ご連絡」「ご住所」「ご自宅」「ご希望」

d.自分の行為をへりくだって相手を立てる謙譲語。
・「お届け」「お伝え」「ご相談」

間違いの多い使い方

二重敬語

一つの言葉に二つの種類の尊敬語が使われているものが二重敬語で間違った表現です。

・「伊藤様はお帰りになられました」⇒「伊藤様はお帰りになりました」
「お……になる」と「………れる」という添加形式の二つを重ねて使うのは間違いです。

・「どうぞお召し上がりになってください」⇒「どうぞ召し上がってください」
「食べる」の交替形式の尊敬語「召し上がる」に「お………になる」がついた二重敬語。

・「お客様がおっしゃられていました」⇒「お客様がおっしゃっていました」
「言う」の交替形式の尊敬語「おっしゃる」に「お………られる」がついた二重敬語。

・「スキーをなされるそうですね」⇒「スキーをなさるそうですね」
「する」の交替形式の尊敬語「なさる」に添加形式の「れる」をつけているので、二重敬語。「なさる」か「される」のどちらかにしましょう。

※二つの言葉にそれぞれ尊敬語を使うのは、二重敬語ではありません。
・○「たくさん読まれて、お疲れになったでしょう」
・○「たくさんお読みになって、お疲れになったでしょう」
・○「お歩きになっていらっしゃいます」
丁寧すぎたりくどい印象になるので、前の言葉の尊敬語を省き、後ろの言葉に尊敬語をつけると、すっきりとした丁寧な印象がします。
・○「たくさん読んで、お疲れになったでしょう」
・○「歩いていらっしゃいます」

尊敬語と謙譲語の混同

a.尊敬語を使用しなければならない相手の行動に、謙譲語の「お~する」を使用している。
・「あちらでお尋ねしてください」⇒「あちらでお尋ねください」
・「待合室でお待ちしてください」⇒「待合室でお待ちください」

b.尊敬語と謙譲語が混同している
・「お客様が参りました」「お客様が参られました」⇒「お客様がいらっしゃいました」
・「資料をご持参ください」「資料をご持参になってください」⇒「資料をお持ちください」「資料をお持ちになってください」
・「社長が申しました」「社長が申されました」⇒「社長がおっしゃいました」
・「先生はドライブをいたしますか」「先生はドライブをいたされますか」⇒「先生はドライブをなさいますか」「先生はドライブをされますか」
・「どうぞ拝見してください」「どうぞ拝見されてください」⇒「どうぞご覧ください」
・「社長は会議室におります」「社長は会議室におられます」⇒「社長は会議室にいらっしゃいます」

謙譲語を尊敬語と勘違いして相手や第三者に使用しているケース。また謙譲語に尊敬語の「られる」をつけても尊敬語にはなりません。

間違いやすいNG言葉 

目上の方に対して使用NG

・「ご苦労様です」⇒「お疲れ様です」
「ご苦労様」は目上の立場から目下の立場、あるいはお客様が業者などに対し使用する言葉です。

・「了解しました」⇒「承知しました」「かしこまりました」
「了解しました」は、同僚や友人などの間、あるいは目上から目下に対して使用する言葉です。

・「参考になりました」⇒「勉強になりました」
「参考にする」という言葉は、自分の考えを決定する際の判断材料のひとつにするといった意味であるため、横柄に受け取られやすく目上の方に対して使用するのは失礼。

口癖になりやすい、気をつけたい言葉

・「すいません」⇒「申し訳ございません」
「すいません」という言葉は「すみません」をいいやすくした口語であるため、目上の方に対して用いるには失礼な表現です。特にビジネスシーンでは、使用しない方が良いでしょう。

・「名前を頂戴できますか」⇒「お名前を伺ってもよろしいでしょうか」
名前はもらうものではないので、不適切な表現です。

意味を勘違いしやすい言葉

・「役不足です」⇒「力不足です」「力量不足です」 「役不足」という言葉は、与えられた仕事が自分の実力には取るに足らない、満足できないということを意味します。自分の能力が足りず自信がないという意味で伝えたい場合は、「力不足」「力量不足」を用いましょう。

二重表現/重複表現、意味が重複している言葉

・「どうぞお身体ご自愛くださいませ」⇒「どうぞご自愛くださいませ」
「ご自愛ください」という言葉自体に、「身体を大切にしてください」という意味が含まれています。
・「馬から落馬しました」⇒「落馬しました」
・「伝言を伝えます」⇒「託された伝言です」

NGな流行り言葉

・「なるほどですね」⇒「おっしゃるとおりです」「同感です」など
「なるほど、そうですね」を省略した造語で、文法的にも間違いです。また、「なるほど」は敬語ではありません。ビジネスシーンでは、目上の方に敬意もった話し方をすることがマナーなので、「なるほど」という言葉自体が評価を下して同意する意味合いと受け取られかねないので、使い方には注意が必要です。

マニュアル敬語

バイト敬語とも言われる。アルバイト店員が多いサービス業界で、よく使われる言葉です。マニュアル化されているケースもあるため「マニュアル敬語」と呼ばれるようになった。

・「こちらの商品でよろしかったでしょうか」⇒「こちらの商品でよろしいでしょうか」
・「お荷物の方をお持ちします」⇒「お荷物をお持ちします」
・「1,000円からお預かりします」⇒「1,000円お預かりします」
・「こちらカレーになります」⇒「こちらカレーでございます」
・「こちらでお渡しする形です」⇒「こちらでお渡しします」

さいごに  

コミュニケーションで重要なのは、相手との心理的距離、社会的距離を意識するということです。その距離に応じた言葉の使い分けができることが大人のマナーです。その為には、ボキャブラリーを増やし、場面に応じた表現ができるよう引き出しを増やしましょう。

また、言葉は一生学びなので、迷ったら必ず調べることが重要です。 言葉のマナーを身につけることにより、より心豊かな人間関係が築けることでしょう。

監 修

監修いただいたのは、【日本サービスマナー協会】認定マナー講師 江頭美鈴先生です。

日本サービスマナー協会 認定マナー講師 江頭美鈴さん
江頭 美鈴さん

日本サービスマナー協会 認定マナー講師

マナーは、相手を思いやる気持ちが基本にあり、人と人とのつながりに潤いを与えてくれます。マナーの基本を知り、心豊かに日々を過ごせたら素敵ですね。イメージコンサルタントとしても、ブラッシュアップのお手伝いをしております。

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