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【小さなベランダ&庭のある暮らし】第10回 画家・伊藤眸さん、デザイナー・柴山修平さん/街の屋上にて、農的な暮らしを実験中。

屋上菜園を楽しむ夫婦の画像

writer 石川理恵

人それぞれの「自然とのつながり」をテーマに、この連載ではベランダや庭のあるお家を訪ねます。

第10回目は、東京・足立区の河川敷の近くで、書籍と道具の店「Zelt Bookstore(ツェルト ブックストア)」をオープンした夫婦を取材。

屋上で野菜を育て、1階で店を営む暮らしをのぞいてきました。

3年目にして、夏野菜が収穫できるように

マンション外階段の踊り場に立つ夫婦の画像
▲元は1階が履物屋さんだったという、2階建て+屋上の店舗付き住宅。北千住駅からバスで10分ぐらいの本木新道沿いにあります。

2020年春、自由にDIYできる一軒家を借りたふたりが、最初に手をつけたのは屋上でした。作物を育てるために、コンテナを置いて土を運び込み、種を蒔いて苗を植えて……。

「区民農園の抽選に外れてしまい、屋上を使うしかなく、部屋もまだ片づいていないうちから土いじりをしていました。でも、ぜんぜん育たなかったんですよね。トマトなんて実がなったのはほんのひと房。プランターの場合は、畑や地植えと同じように考えてはダメなんだと、そこからいろいろ調べはじめました」と伊藤さん。

翌シーズンは、液体肥料を取り入れたおかげでたくさんのトマトが実ったものの、鳥に食べられてしまいました。ようやく収穫ができるようになったのは、3年目からのこと。4年目となる今年は、トマト、ナス、ピーマン、キュウリ、シソなどが育ち、ふたり暮らしの食卓を満たすくらいの量に。

ミニトマトを収穫する画像

コンテナをプランターにしている画像
▲プランターにしているのは、サンコーのコンテナ「サンボックス」。底に穴を開け、鉢底石を敷いてから、たっぷり土を入れています。

仕事の前に、屋上で土に触れる

青空と植物の画像

愛犬が横たわっている屋上の画像
▲夏の屋上は、愛犬シロもダレるほどの暑さ。水をまき、収穫して枯葉をつんだら、早めに切り上げています。水やりは、ホースでいっきに。

「僕は一回だけの収穫ではなく、次々採れるようなものを育てるのが好きです」と柴山さん。春はスナップエンドウなどの豆類、夏はオクラ、冬はシュンギクがそういった類です。とくに豆は、秋に種を蒔いて越冬させると育ちがいいのだとか。失敗続きだった1年目も豆類だけは収穫ができて、くじけそうな心を励ましてくれました。

朝起きて、犬の散歩、ストレッチ、朝ごはんをすませたら、8時ごろから屋上へ。真夏以外は、1時間半ほど農作業をしてから一日がはじまります。端境期は土のリフレッシュをしたり、成長期はネットをかけたり、することはいっぱいあると伊藤さんは話します。

「肥料は使っても、農薬は使いたくないから、作物が虫に食べられてしまうことはよくあります。たとえばトマトは、まだ実が青いうちに虫にかじられて、ぽろりと落ちていたり。もったいないから拾ってキッチンで追熟させているんです。今はもう、虫が食べ残したものを食べればいいや、くらいの気持ちになりました(笑)」

プランターの画像
▲伊藤さんの実家から送れてきたサトイモがあまりにも立派だったので、いくつか種芋にし、育つかどうかを実験中です。「収穫できないとしても、葉っぱだけでもかわいいです」と伊藤さん。
カゴにのせた夏野菜の画像
▲夏野菜は今が盛り。ほか、紫キャベツ、ビーツ、ナスタチウムなどを育てています。

自然につながることは、自分の力で生きること

アトリエの画像
▲2階には寝室と、画家である伊藤さんのアトリエがあります。毎年、東京・三軒茶屋にある「Obscura Mart」にて「花展」に参加し、花をテーマとした絵も描いています。

観葉植物を飾るインテリアの画像
▲家のあちこちに、観葉植物が飾られています。左上の松は、花の人・小春丸さんによるお正月飾り。

屋上菜園は手間もコストもかかるし、うまくいかないことがいっぱいです。けれども、農家に育った伊藤さんと、山形で畑を耕していた柴山さんにとって、野菜は育てたり分け合ったりするものという感覚があります。何より「自分が食べるものを自分で作れたほうが喜びがある」と柴山さん。

「楽しそうな人は自分の力で生きている。山形に暮らしていた頃にそう感じました。雪が降ったらスノーシューズを履いて山に入る。春には食べられる山菜を採りにいく。自然のなかで遊ぶことができたり、ものの出所やどう作られているかをわかっていたりするほうが、おもしろいですよね」

ふたりは先月、書籍と道具の店「Zelt Bookstore」を自宅の1階にオープンしたばかり。小さな空間にセレクトしているのは、そういった「生きる力」につながるような本や道具です。日々、屋上で野菜を育て、週末は店を開く。この土地で受けられる恩恵に目を向けて、暮らしと仕事をひと続きに組み立てています。

お店の本棚の画像
▲1階にある「Zelt Bookstore」の店内には、本と道具と、自然を感じさせるものが並んでいます。左上は、伊藤さんの作品をポスターにしたもの。路傍にまつられた石仏、道祖神から名前を借りて、架空の「DOSOJIN」を描いたシリーズです。

撮影/川しまゆうこ
取材・文/石川理恵

取材・協力

伊藤眸(いとうひとみ)・柴山修平(しばやましゅうへい)

「Zelt Bookstore」オーナー

東京・足立区にて、週末に書籍と道具の店「Zelt Bookstore」を営む。ほか、伊藤さんは画家。柴山さんは山形の天童木工でのデザイナーを経て、現在はデザインオフィスZeltを運営し、内装設計、webデザインに携わる。Instagram:@zelt_info

作家プロフィール

石川理恵(いしかわりえ)

編集者・ライター

雑誌や書籍でインタビューを手がける。著書に『時代の変わり目をやわらかく生きる』(技術評論社)、『自分に還る 50 代の暮らしと仕事』(PHP 研究所)他。東京・豊島区のアパートの一室に、小さな週末本屋をオープン。instagram:@rie_hiyocomame

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