読み物
【岡本典子の新月花屋・9月】草花をサッと束ねた小さなスワッグで、空間に変化を。
writer 石川理恵
新月は、気持ちをあらたにする日。
ふだんは時間に追われがちな人も、この日ばかりは自分のために花を飾ってみませんか。植物の力がきっとやすらぎをあたえてくれます。
ここは新月だけオープンする小さな花屋。
店主・岡本典子が、出合った花の魅力や花づきあいについて語ります。
壁に飾ったまま、ドライフラワーに
今朝の市場で、淡いピンクのリモニウムを見つけました。
リモニウムは水分が少なく、ドライフラワーになりやすい花です。立秋が過ぎたとはいえ、花持ちがよくなるほどに涼しくなるまでは、あともう一息。今日はこのリモニウムを束ねて、スワッグをつくりましょう。
スワッグとは、草花を束ねた「壁飾り」のこと。壁に飾ったままドライフラワーにもできるから、花瓶に生けるより長く楽しめるのです。
やさしくてきれいなリモニウムのピンクを、甘すぎることなくまとめたい。
そう思って合わせたのは、やはりドライフラワーになりやすいセルリアと、ギンバグミです。ギンバグミは名前の通り葉の裏側がシルバーで、艶やかなセルリアと合わせると大人っぽい雰囲気に。縛る紐を茶色にして、少しだけ秋を先取りしました。
花材を選べば、2種類でもさまになる
つぎに思いついたのは、実と実を合わせてみること。
ビバーナムティナスとユーカリは、それぞれ違うタイプの実とたくさんの葉がついています。ボリュームのある葉をクッションにしながら束ねることで立体的になり、2種類とは思えないメリハリのあるスワッグになりました。
植物と対話をするように、束ねる時間が楽しい
もうひとつ、ルリタマアザミ、クラスペディアの丸いフォルムから水玉を連想し、一緒に束ねてみることに。まるで光をはなっているような花の発色がとてもきれい。下からのぞくと、さらにその色がくっきりしてハッとします。
スワッグは、上手に整えたものよりも、葉っぱが多少はみ出ているようなざっくりとした仕上がりのほうが、私は見ていてホッとします。
植物の向きたい方向を生かしてあげられるのが、スワッグづくりのおもしろさ。「そのままでいいよ」と心の中で語りかけるように手を動かしています。
撮影/安永ケンタウロス
スタイリング/岡本典子
聞き手・文/石川理恵
■「新月花屋」のこれまでの連載はこちらから
作家プロフィール
岡本典子(おかもとのりこ)
花生師 ハナイケシ
植物をこよなく愛し、メディアや広告、展示会などで植物を通した表現を手がけるほか、アトリエ「Tiny N」を不定期オープン。著書に『花生師 岡本典子の花仕事』(誠文堂新光社)、『花生活のたね』(エクスナレッジ)など。instagram:@hanaikeshi
石川理恵(いしかわりえ)
編集者・ライター
雑誌や書籍でインタビューを手がける。著書に『時代の変わり目をやわらかく生きる』(技術評論社)、『自分に還る 50 代の暮らしと仕事』(PHP 研究所)他。東京・豊島区のアパートの一室に、小さな週末本屋をオープン。instagram:@rie_hiyocomame