読み物

エッセイスト・小川奈緒さん連載【だから暮らしはおもしろい】vol.14  旬のくだものが暮らしをおいしく潤してくれる

writer 小川奈緒、illustrator 小池高弘

家づくりや暮らしにまつわる多くの書籍を手がけ、音声メディアVoicyでも人気のエッセイスト・小川奈緒さんによる、毎日をちょっと楽しく、豊かにしてくれる連載コラム【だから暮らしはおもしろい 】。

毎月第1・3月曜日に更新中です!

毎日くだものを食べる暮らしの豊かさ

旬のくだものをなるべく毎日食べるよう心がけている。健康のためというより、ただそれだけで、心と暮らしまで潤う実感があるからだ。

くだものは野菜に比べて、切らしたところで日々のごはんづくりに困ることはないし、一人暮らしのころは、値段は高いし一人では食べきれないしと、すすんで買うことはなかった。

けれど、家族ができて、子どもが生まれ、娘が無類のくだもの好きとあって、ねだられて買ううち、いつのまにか、くだものがない生活がとても味気なく感じられるようになった。

ふと考えてみれば、子ども時代も、実家では夕食後のくだものは欠かせないものだった。わたしの地元は梨が名産で、夏から秋にかけては、毎日毎日、梨を食べつづける。

梨以外にも、秋はふどうや柿、冬はりんごとみかん、春はいちごやさくらんぼ、夏は桃にすいか……お中元やお歳暮、親の仕事の関係や、親戚から送っていただいたものまで、実家の納戸や冷蔵庫には、いつも何かしらくだものがあった。それを夕食後に家族にくばるのは、末っ子のわたしの役目でもあった。

そんな生活があたりまえすぎて、当時は喜びもありがたみもなかったけれど、実家を出て自分で買い物をするようになってみると、くだものを一年中、毎日食べていたあの日々は、なんて豊かだったのだろうと思うようになった。

季節の移り変わりをおいしく味わう

たとえば夏のすいか、冬のみかんなどがわかりやすいように、旬のくだものには、季節によって変化する体内の水分量や体温を自然に調節して、その時期に不足しがちな栄養素を補給してくれる機能があるといわれている。

もちろんそれは野菜も同じだけれど、くだものは、調理不要で生で食べられて、しかも多くは甘い、という点に特別感がある。

食べ物は、旬の時期に、産地の近くで求めるのが、いちばんおいしくて、価格的にも安い。だから、普段は近所の市場で、または出かけた先の道の駅などで、旬のくだものを買い、その季節を味わいながらいただく。お酒をやめたせいもあって、ときに数千円という出費になったとしても、それは贅沢ではないと思える。

大人の手みやげとしても最強

手みやげとしても、旬のくだものは喜ばれる確率が高いことが、経験とともにわかってきた。これまで、仕事でもプライベートでも、数々の差し入れや手みやげをいただいたり、こちらからも贈ったりしてきたけれど、旬のくだものはまずハズさないと思っていい。もちろんわたしの場合は、いただいたら100%うれしい。

お菓子やお酒などを贈るむずかしさは、自分はもらってうれしいと思うものでも、相手がそうとはかぎらないところだ。SNSで話題の入手困難なお菓子でさえ、相手が甘いものが得意でなかったり、ダイエット中だったりしたらアウト。

でもくだものなら、相手を困らせる可能性はぐっと下がる。なぜなら、そのまま食べる以外に、料理やお菓子の素材としても使えるし、ジャムやシロップやドリンクに加工することだってできる。

自分だけでは食べきれないと思えば、周囲にも配りやすい。つまり、全部食べ尽くさなくても罪悪感を持つことなく、贈ってくれた相手から気持ちだけありがたく受け取ることができる。

だから、贈り物に迷ったら、旬のくだものを選ぶ。こんなふうに、くだものは今、いつも身近なところで、わたしの暮らしをおいしく支えてくれている。

作家プロフィール

小川奈緒(おがわなお)

エッセイスト、編集者

築47年の縁側つき和風住宅に暮らしながら、イラストレーターの夫・小池高弘と中学生の娘と暮らす。最新刊『すこやかなほうへ 今とこれからの暮らし方』(集英社)、近著『ただいま見直し中』(技術評論社)など著書多数。instagram:@nao_tabletalk

小池高弘(こいけたかひろ)

イラストレーター

のびやかで抜け感のある線画で、書籍や雑誌の挿画、オーダー作品などを手掛ける。小川奈緒との夫婦作品に『心地よさのありか』(パイ インターナショナル)、『家がおしえてくれること』(KADOKAWA)などがある。instagram:@takahiro_tabletalk

読み物カテゴリー一覧
ページトップへ