読み物
vol.22 ワンピースをかさねる
目の前で茶葉が踊っている。
さっき、透明なティーポットに、沸かしたてのお湯を勢いよく注ぎ込んだ。
熱湯の中で、煽られて浮かび上がるダージリンの茶葉。それとともに、透明なお湯の中で、紅い糸がじんわりといくつも広がっていく。
広がった糸はほつれて消えるように溶け、お湯が濃くなっていく様子をひとしきり眺めていた。
「そろそろかな」
と、ワンピースの肩ひもを親指でピッと持ち上げる。
今日は、薄いピンクのギャザーシャツに、ネイビーのコットンワンピースをかさねてみた。
ぱっと見は、デニムのオーバーオールのようなワーク感がありつつも、裾へと広がるフレアがほどよく品のある雰囲気を醸してくれる。そんな、軽やかで落ちつく風合いが好き。
カップは事前に温めていて準備はばっちり。
ポットを傾けると、紅茶を注ぐ音が耳にやさしく響いた。
このひとときの静けさ。
日々の慌ただしさが、どこか遠くにいってしまったような気がする。
文/ななくさつゆり・小説家
イラスト/poe
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