読み物
vol.23 風とヘリンボーン
朝の匂いに、秋を感じる。
洗濯かごを抱えてベランダに出ようとした。
窓を開けたら、ひんやりした朝の風が、レースのカーテンをふわりと膨らませる。
カーテンの裾がひらりとめくれて、流れてくる外の匂いを拾った。
空は穏やかな晴れ。
一通り干してから部屋に入る。クローゼットと目が合って、
「あ、いいかも」
こんな日なら、あれを着てみたいと思った。
取り出したのは、ブラウンのチェック柄ブラウス。
ヘリンボーン織りの豊かな表情とほのかな起毛感が、いまの空気に馴染んでくれそう。
窓を閉めようとしてかまちに触れたとき、またカーテンが風で膨らんだ。
「うん。秋の匂い」
この風には、すこし前までの、日に焼かれ蒸したような感じがない。
木陰で冷まされてきたかのような、そんな風合いにやすらいでしまう。
ただ、その風もそう遠くないうちに、冬をまとうのだろう。
このひんやりとした風も、いずれ。
文/ななくさつゆり・小説家
イラスト/poe
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