読み物
vol.24 赤い靴下がよさそう
朝早くに、リビングでぱちりと音が鳴った。
石油ストーブが芯に赤い火をともし、底冷えした部屋の空気を静かにあたためている。
寒さでこり固まったわが家を、中からじっくりほぐしてくれていた。
カーテンを開けようと思って、寝起きの冷めきった足でベランダに通じる窓にあゆみ寄る。床暖房のないフローリングをぺたぺたと、足裏に冷えを感じながら音を立てて歩いた。
つい、そばにあるタンスの引きだしから、メリノウールの赤い靴下をひっぱりだす。
片足立ちで、足をつつむようにそっと履き、
「うん。いいね」
と、足首を撫でてつぶやいた。
鏡にうつる自分と目が合う。片足立ちで、顔をほころばせながら靴下を履く自分がいた。鏡の奥のストーブが、もういちど、ぱちりと音を鳴らす。
そんな、穏やかな朝。
文/ななくさつゆり・小説家
イラスト/poe
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