読み物

vol.25 袖を通す

陽がさしたのだと思った。

光芒にひかれるようにして庭をみると、落葉の下で水仙が顔をのぞかせている。

「……もう冬かな」
今朝、居間の底冷えした空気に触れて、ふいに冬の訪れを感じた。

——ほんとうに、あっという間ね。

秋は瞬く間にすぎていって、金木犀のかおりを感じたのも数日あったかというくらいだった。
外の水仙を横目に、畳の上に正座して、しまい忘れていた夏物を畳む。重ねてからタンスにしまった。
こうすればこの子たちはまた、次の季節へといけるだろう。

季節はめぐっていく。
今日はとうとう、ニットカーディガンを羽織った。
ふんわりしたドルマンスリーブで、素朴なアイボリーの色みが寒くなるいまに馴染んでくれる。
ケープのように羽織れば、それはあらたな季節を出迎えるよそおい。

季節はめぐっていた。
わたしは、そのときどきで自然に居られる一着を選び、袖を通す。
そのあり様は、あの日あのとき、過ぎ去った今日のよそおいとして、わたしの胸にしまってある。

季節はめぐっていく。
過ぎ去るいまの中で、ありのままに居られるやすらかさをかみしめながら、今日を肩にのせて。

ななくさつゆりさんのショートストーリーは今回が最終回となります。最後までお読みいただきありがとうございました。

文/ななくさつゆり・小説家
イラスト/poe

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