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【髪とおしゃれ】エッセイスト・広瀬裕子さん(前編)/57歳で「染めない」という選択。信頼できる美容師との出会いが転機に
writer ナチュらぎ編集部
見た目の印象を左右する髪型は、洋服選びはもちろん、毎日の過ごし方にも大きな影響を与えます。
この企画では、自分らしいスタイルで日々を楽しむ人に会いに行き、「髪とおしゃれ」にまつわるお話を聞いていきます。
第1回目は、エッセイストの広瀬裕子(ひろせゆうこ)さんです。今から2年半ほど前、57歳の広瀬さんが選んだのは、白髪染めをやめてシルバーヘアにすることでした。
美しく、やさしい言葉で暮らしをつづる著書の雰囲気そのままの、しなやかで凛とした佇まいに、とてもなじんでいるようにみえる白い髪。前編は、染めないと決めるまでの道のりと移行期のお話です。
ヘアカラー、ブリーチなどの迷走期を経て
広瀬さん
「最初に白髪が気になりだしたのは40歳を過ぎた頃です。それまでは色を楽しむヘアカラーをしていましたが、カラー剤が合わずに痛みを感じることもありました。
それで、オレンジが強くない、好みの色のヘナカラーをしてくれる美容室を見つけて、通い始めたのが40代後半です」
「植物由来のヘナカラーは、痛みはないものの、染めるのにとにかく時間がかかるんです。途中、住まいを鎌倉から香川に移したこともあり、神奈川にある美容室まで行って染めるとなると一日がかり。だんだんとこの時間が大変に感じるようになり、ヘナはやめることにしました」
とはいえ、50代半ばのその頃はまだ、シルバーヘアの選択肢はまったくなかったそうです。
再びヘアカラーをすることにした広瀬さん。頭皮に痛みを感じながらも、短い時間だからと自分に言い聞かせ、我慢していたといいます。
「でもある日、『これをあと10年以上続けるのか……いったい何のために?』と。それまでも漠然と思っていたことですが、気持ちが強く揺れた瞬間がおとずれたんです。
それから一年くらいは、髪を短くしてみたり、明るくしたらどうかとブリーチをしてみたりと、試行錯誤を繰り返しました」
そんななか、転機となったのは、現在もお世話になっている美容師の薫森正義(しげもりまさよし)さんとの出会いでした。
「たまたまInstagramで、私が好きな椅子(PK22)をご自宅で素敵に使っている写真を見つけて辿っていったところ、美容師さんということがわかったんです。
言葉は曖昧なものなので、言葉で何かを伝えても、実際は同じことを考えていないことも意外に多いですよね。でも感性に共感したこの方にだったら、気持ちを伝えやすいかもしれない、そう思って連絡したところ、タイミングよく予約をとることができました」
実際お会いした薫森さんは、違うと思ったらごまかさずにきちんと伝えてくれる人。好きなインテリアやアートなどのセンスも近く、信頼できる方だと感じたそうです。
「カラーをやめたいと思っています」そう伝えた広瀬さん。薫森さんから返ってきた言葉に、背中を押されました。
「『あ、いいんじゃない』って、そう言ってくれました。その言葉を聞いて、染めない、という選択肢をすっと選ぶことができたんです」
同じ悩みを持つ人へ。シルバーヘアへの道のりを公開
広瀬さんは雑誌のWebサイトで、シルバーヘアになる経過を公開されています。2年にもおよぶ、ほぼリアルタイムの連載は反響を呼びました。勇気がいることだと想像するのですが、どういった経緯だったのでしょうか。
広瀬さん
「染めないと決めるまでの一年間、すごく考えました。じつは私、基本的にいろんなことに迷わない、悩まないタイプなんです。だから、ふだん悩まない私がこれだけ迷走するということは、ほかの皆さんも困っているんじゃないかと思ったんですよね。
きれいな白い髪の女優さんもたくさんいるけれど、どういうふうに過ごしてきたかなど、途中経過は知らない。私自身知りたかったことだったので、記事にしたら興味をもってもらえるのではと、知り合いの編集者に提案したことで実現しました」
■シルバーヘア完成までの約2年間
「じつは、連載の第1回目に『途中でやめるかもしれません』と書いたんです(笑)なにがなんでも絶対に、とは思っていなかったし、やめたらそれはそれで、気持ちの揺れも参考になればと思っていました。
あとは薫森さんが、途中の困りごとをどうやって切り抜けるかを考えてくれたおかげで、シルバーヘア完成まで無事に辿りつくことができました」
移行期のお役立ちアイテムは?
広瀬さん
「染めないと決めてから一番悩ましかったのは、半年たったくらいの頃。生えてくる白い毛と染めていた部分とのコントラストが強く出ていた時期です。生え際をカバーできる帽子やカチューシャ、スカーフに助けられました」
「ふだんのケアは、シャンプー、トリートメントのあと、椿油をつけてからドライヤーで乾かしています。血行をよくするために、つげの櫛でのブラッシングも習慣に。シャンプーは、年齢とともに足りなくなるハリ・コシを与えるタイプを選ぶようになりました。
ピンピン出てくる短い毛の対策に便利なのが、MiMCのスタイリングバーム。スティックタイプで使いやすく、デザインもシンプルなところがお気に入りです」
2年の移行期を経て、シルバーヘアを完成させた広瀬さん。後編では、白い髪で楽しむおしゃれのお話をお聞きしています。どうぞお楽しみに。
撮影/河合信幸
取材・協力
広瀬裕子(ひろせゆうこ)
エッセイスト
執筆のかたわら、ホテルや店舗、レストランなどの空間設計の仕事にも携わる。東京、葉山、鎌倉、香川を経て、現在は東京在住。『整える、こと』、『55歳、大人のまんなか』(PHP研究所)など衣食住をテーマにした、暮らしにまつわる著書多数。Instagram:@yukohirose19