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エッセイスト・小川奈緒さん連載【だから暮らしはおもしろい】Vol.3 みんなでやれば楽しくてはかどる、春の大そうじ
writer 小川奈緒、illustrator 小池高弘
家づくりや暮らしにまつわる多くの著書や、音声メディアVoicyでも人気のエッセイスト・小川奈緒さんによる、毎日をちょっと楽しく、豊かにしてくれる連載コラム【だから暮らしはおもしろい 】。
毎月第1・3月曜日に更新中です!
きっかけはVoicyの放送から
パーソナリティとして平日毎朝5時に配信している、音声メディアVoicyの「家が好きになるラジオ」。
日々の暮らしでわたしが感じていることや、これまで経験してきたことをシェアする場としてスタートし、今ではリスナーさんたちと一緒に「こんなことをやってみるのはどうかな」と日常を向上させるアイデアを持ち寄る楽しいコミュニティに育っている。
ある日の放送では、片づけの話題から「スプリングクリーニング部」という大そうじプロジェクトが立ち上がり、リスナーさん同士で共通のハッシュタグをつけてSNSを投稿し合うことに。
みんなで一緒に片づけをがんばることがモチベーションとなって、さっそく当日からインスタグラムやツイッターで投稿が飛び交い始めた。
大そうじは冬より春がいい
「スプリングクリーニング」はもともと欧米の習慣で、冬の間に使った暖房のすす汚れをきれいにするついでに家じゅうの大そうじをするという。
日本では大そうじといえば年末だけど、ただでさえ仕事が忙しい時期に、さらに追いうちをかけられるようで心身の負担を感じる人は多いだろう。
実はわたしは、2年前から「ムーンクリアリング」という月の運行サイクルに合わせて家の各所をそうじする方法を実践し、大そうじの悩みからは解放されたのだけど(ムーンクリアリングについてはまた回をあらためてくわしく書きます)、それはともかくとして、大そうじはなにがなんでも年末にこだわらなくてもいい、と思っている。
このたび春のそうじに取り組んでみると、新年度に切り替わるこの時季の方が、気候的にも体力的にも真冬よりラクだし、教科書など子どもの学用品の見直しや整理にもいいタイミング。明るく前向きな気分で作業に取り組めると感じた。
片づけるほどに感覚が澄んでいく
幼少期に同居していた祖父母がきれい好きだったおかげで、玄関もリビングも毎日ピカピカに磨かれた家で育った。
おかげで、散らかった空間が落ち着かないという性分なのだが、実は、片づけやそうじの作業自体が好きなわけではない。
ただ、家が散らかると、日々の暮らしの幸せが揺らいでしまう気がするのだ。
毎日同じ時間に飲む、同じ店から取り寄せているコーヒーの味とか、朝リビングの床にマットを敷いて行うヨガの気持ちよさとか、キッチンに満ちる、自分で焼いた素朴なお菓子の匂いとか。
そうしたささいなことひとつひとつに、家がきれいなら、「これ以上の幸せはないな」と感動できる。でも散らかると、そうした幸せへの感度が鈍る。
春の大そうじプロジェクトに参加してくれているリスナーさんたちにも、同類の匂いを感じる。
「片づけたら家も気分もさっぱりした」という爽やかな投稿を見ると、こちらの家まで、清々しい春風が吹いてくるようだ。
「お疲れさま」の気持ちをこめて「いいね」を押したら、わたしも何か手放せるものはないかと、靴入れやクローゼット、家じゅうの収納を点検しにいく。
こうしてみんなで刺激し合いながら進める春の大そうじは、なんだかとても楽しい。
作家プロフィール
小川奈緒(おがわなお)
エッセイスト、編集者
築47年の縁側つき和風住宅に暮らしながら、イラストレーターの夫・小池高弘と中学生の娘と暮らす。最新刊『すこやかなほうへ 今とこれからの暮らし方』(集英社)、近著『ただいま見直し中』(技術評論社)など著書多数。instagram:@nao_tabletalk
小池高弘(こいけたかひろ)
イラストレーター
のびやかで抜け感のある線画で、書籍や雑誌の挿画、オーダー作品などを手掛ける。小川奈緒との夫婦作品に『心地よさのありか』(パイ インターナショナル)、『家がおしえてくれること』(KADOKAWA)などがある。instagram:@takahiro_tabletalk