読み物

vol.9 ひざしと影に誘われて

ひざしの白に、薄黄色の帯のような光が、音もなくまじりだす。

静かな住宅街を歩き、電車でふた駅だけ揺られ、改札を抜けてのんびりと町へ。

駅の軒下を出れば、ひざしがやや西からこちらを覗き込んできた。夕の匂いを帯びたぬるい風が、袖や裾をなでつつ吹き抜けていく。

そんな今は、身幅にゆとりのある五分袖のリネンポロ。

さらにもう一歩あゆみ出ると、つま先の指す方に一瞬だけ影がはしった。はしった方に目をやれば、商業ビルのむこうには鳥のシルエットがひとつ。
空を切る翼のような黒が、やがて豆粒よりも小さくなり、そのまま町の脇へと逸れ、建物の群れに消えた。
そらにも、奥ゆきがある。
ふと襟が気になったから、空いている方の手でそっと直した。ネイルのふちに陽光の粒が小さく跳ね、歩くたびに袖はやんわりと揺れる。

いつから半袖にするかな。

作家プロフィール
ななくさつゆり/小説家・ライター
眺めるように読める詩や小説、読む人のこころにふれる、情景が浮かぶようなストーリーを作る。

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