読み物
【小さなベランダ&庭のある暮らし】第6回 編集者・加藤郷子さん/ベランダがいちばんの特等席。
writer 石川理恵
人それぞれの「自然とのつながり」をテーマに、この連載ではベランダや庭のあるお家を訪ねます。
第6回目は、借景の緑に包まれながら暮らしている、編集者の加藤郷子さんを取材。
植物を育てるのが苦手という加藤さんの、インテリアグリーンを楽しむ様子もうかがいました。
住まい選びは「眺め」で決めたい
霧雨を浴びて、みずみずしく青々と茂る木々。取材の日は、降ったりやんだりのあいにくのお天気でしたが、ベランダの向こうに広がるしっとりと深い緑は心が静まるような美しさで、雨は自然の恵みなのだと感じさせてくれました。
「家に帰ってきたとき、この景色が見えるとホッとします」と話す加藤さん。窓からの眺めが抜けているかどうかが、住まい選びの第一条件だったそうです。
「私は田舎育ちで、自然が大好きってわけではなかったけれど、いざ東京の街中に住んでみたら、空や緑が見えていない家に住むのは息苦しかったんです」
フリーランスで働く加藤さんにとって、家は仕事場でもあります。現在のマンションに夫婦で暮らしはじめて、4年が経ちました。在宅仕事の日は緑を感じながらパソコンに向かい、息抜きしたいときには窓辺に置いた椅子から空を眺め、仕事を終えたらベランダに出て、一息してから夜ごはんの支度へ。借景のおかげで気持ちを切り替えながら一日を過ごしています。
料理に使えるハーブやリーフをベランダ栽培
ベランダには、ハーブや実のなる木、モッコウバラなどが並んでいます。
「私は植物をことごとく枯らしてしまうので、面倒をみるのは夫の担当です。イチョウ、クワ、レモンの木は、前に住んでいた家から育てているものだから10年以上の付き合いだと思います。イチョウは、『銀杏を植えたら芽が出てきた』といって、友だちがくれました。冬には葉っぱがぜんぶ落ちて、春にはまた新芽が出てくるところが、かわいいんですよ。去年、苗で買ったコブミカンは、葉っぱをサラダや炒め物に混ぜるとエスニック料理らしい香りに仕上がります」
シソ、パクチー、バジルなどは一年草として、シーズンが終わるとお片づけ。大きな不織布のバスケットに土を戻し、土のリサイクル材を混ぜて翌シーズンに備えます。
部屋のあちこちに切り花を飾って気分転換
室内の切り花や観葉植物のお世話は、加藤さんの担当です。
「仕事仲間が、これなら私でも育てられると教えてくれた『ジュエルオーキッド(宝石蘭)』は本当に丈夫で、毎年、花も咲かせるんですよ。うれしくって、その度に写真を撮り、教えてくれた人に報告しています」
以前の住まいの最寄り駅にかわいい花屋さんがあったのをきっかけに、仕事帰りに時々花を買うようになりました。
「花を生けているのは、イケアで買った花瓶や、作家ものの陶器、ジャムの空き瓶など。ピッチャーとして買ったものを花瓶にすることもあるし、作家さんの花器は花を挿さないでそのまま飾っていることも多いです」
内装や家具などのインテリアはそうそう変えられないけれど、花を飾るとちょっぴり新鮮な気持ちになれるから、今ではなるべく花を絶やさないように暮らしています。
「この家に住むようになってからカフェに行くことが減りました」と話す加藤さん。家がいちばん居心地いいと思えるのは、植物たちの癒しの力が大きいのです。
撮影/川しまゆうこ
取材・文/石川理恵
取材・協力
加藤郷子(かとうきょうこ)
編集者・ライター
出版社勤務を経て、フリーランスに。料理、インテリア、手仕事など、暮らしまわりの記事を編集、執筆。最近では『趣味どきっ! 染めものがたり』(NHK出版)、『北欧の日常、自分の暮らし』(桒原さやか著/ワニブックス)を手がけた。趣味はおいしいものを食べ歩くことと、アート巡り。instagram:https://www.instagram.com/chocozai/
作家プロフィール
石川理恵(いしかわりえ)
編集者・ライター
雑誌や書籍でインタビューを手がける。著書に『時代の変わり目をやわらかく生きる』(技術評論社)、『自分に還る 50 代の暮らしと仕事』(PHP 研究所)他。東京・豊島区のアパートの一室に、小さな週末本屋をオープン。instagram:@rie_hiyocomame