読み物

vol.14 ささめく雨にひかれて

雨音を聴いていた。

空には藍色に近い濃灰の雲が群がっていて、連日の雨を降らしている。

今日は家に帰ってしばらく、外から漏れ入る光を頼りにして、北欧を巡る旅のエッセイを読み耽っていた。買ったばかりの薄くてソフトなリーディンググラスをかけている。

アームチェアに腰かけて窓の外を眺めると、ガラスにはりつく雨粒の向こうで水気を滴らせる紫陽花のガクが、いつもより色鮮やかに見えた。

雨季を感じつつ景色と活字に目を通し、窓ガラスを打つ雨音を拾う。そのまま気分だけをストックホルムの朝の市場に飛ばし、静かな晴れの気風に浸っていた。
ページをめくれば、本はぱらりと音を立てる。

雨音を拾い、本をめくり、また雨音を拾い……。
外は、しとしと雨。
窓の外は水気を湛えるように湿った空気に充ちていると思う。

指の背を窓に近づければ、ひんやりとした空気がつたってきた。ガラスに映るおぼろげな自分の手の甲は半透明のはかなさで、その向こうに紫陽花がいる。


作家プロフィール
ななくさつゆり/小説家・ライター
眺めるように読める詩や小説、読む人のこころにふれる、情景が浮かぶようなストーリーを作る。

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