読み物
【小さなベランダ&庭のある暮らし】第7回 編集者・佐々木素子さん/ベランダのハーブが支える、ひとり暮らしの食卓。
writer 石川理恵
人それぞれの「自然とのつながり」をテーマに、この連載ではベランダや庭のあるお家を訪ねます。
第7回目に登場するのは、編集者であり、旅にまつわる著書を持つ佐々木素子さん。
小さなベランダが食生活を豊かにする様子を取材しました。
「暮らし」をもっと味わいたくて、郊外へ
かつて雑貨の雑誌編集部で働いていた佐々木さんは、かわいい物が大好き。ひとり暮らしの部屋には中国茶器やティーポット、ベトナムの食器、アルミの道具、旅先で見つけた置物などがずらりと並んでいます。
「でも、最近は、買い物より自然が恋しくて」
数年前、暮らしをスローダウンさせようと、都内から郊外へ引っ越しました。現在の住まいは、農家の直売所が近くて新鮮な地元野菜を買えることや、2DKのゆとりある間取り、窓から光の入るキッチンが気に入って選んだマンションです。ガーデニング歴25年の佐々木さんにとって、植物を育てられるベランダがあったことも、決め手のひとつに。
小さなベランダを、最大限に活用
ベランダでは、多肉植物と、少しの花たち、そして料理に使いたいものを育てています。
「スーパーでハーブを買っても使い切れないことが多くて、それならば……と、育てるようになりました。大葉は毎年、初夏に元気な苗を2株ぐらい買います。ひと夏の間は充分収穫できるし、料理のたびに摘み立てを食べられます」
棚の奥にヒョロヒョロと育つ小ネギは、スーパーで買った小ネギの根っこを切り落として植えたもの。その横にある山椒の木は、友人の山へ竹の子ほりに出かけた際、引っこ抜いてきたものです。もらったときは爪楊枝ほどの大きさだったのが、今では30cm以上の背丈に成長しています。
日々の料理に香りを添えるハーブたち
「今日は水餃子にしますね」と、佐々木さんは慣れた手つきで皮から餃子を作ってくれました。具は2種類。粗く叩いた豚バラ肉に、ベランダの大葉をたっぷり混ぜたものと、キュウリと切り干し大根を混ぜたもの。切り干し大根は、実家の母の自家製です。
「私が料理をするようになったのは、東京でひとり暮らしをはじめてからです。その頃は編集部が忙しくて、毎日のように終電帰りでしたが、実家の秋田からたくさんの食材が送られてくるんですよ。両親が趣味で育てた野菜や、父が釣った魚や……。それらをちゃんと食べきりたくて、深夜のキッチンに立ったのが自炊のはじまりです」
秋田の保存食文化の中で育った佐々木さんは、「何かを漬けたり、干したり、仕込んだりするのが好き」なのだとか。部屋には柚子の皮や芋がらが、ベランダには野菜が干してありました。今も実家便が届くと、 深夜のキッチンで下ごしらえに向き合っています。そんな料理のサイクルに、ベランダで育てている食べられるものたちが香りを添えているのでした。
「あらためて考えてみると、食材を無駄にしたくないって気持ちが私の暮らしの根本にあるんですね」
それはきっと、四季折々の恵みから料理をこしらえていた、母や祖母から受け継いだもの。小さなベランダとキッチンで循環する食生活に、佐々木さんが大切にしたい原風景が写し出されているようです。
撮影/川しまゆうこ
取材・文/石川理恵
取材・協力
佐々木素子(ささきもとこ)
編集者
旅、料理、手芸、インテリアをテーマに編集と執筆を手がける。著書に『マーケットをめぐるおいしい旅 ベルギーへ』(イカロス出版)があるほか、編集ユニット「auk(オーク)」として『「好き」を追求する、自分らしい旅の作り方』(誠文堂新光社)などを出版。Instagram:@mogu_travel
作家プロフィール
石川理恵(いしかわりえ)
編集者・ライター
雑誌や書籍でインタビューを手がける。著書に『時代の変わり目をやわらかく生きる』(技術評論社)、『自分に還る 50 代の暮らしと仕事』(PHP 研究所)他。東京・豊島区のアパートの一室に、小さな週末本屋をオープン。instagram:@rie_hiyocomame