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エッセイスト・小川奈緒さん連載【だから暮らしはおもしろい】vol.10 ソバーキュリアスで知った、お酒を飲まない楽しさ
writer 小川奈緒、illustrator 小池高弘
家づくりや暮らしにまつわる多くの著書や、音声メディアVoicyでも人気のエッセイスト・小川奈緒さんによる、毎日をちょっと楽しく、豊かにしてくれる連載コラム【だから暮らしはおもしろい 】。
毎月第1・3月曜日に更新中です!
「お酒を飲まない人生」への好奇心
ソバーキュリアスという、「体質的にお酒は飲めるけれど、ライフスタイルとして飲まない選択をする」という価値観を知り、半信半疑で実践してから、まる1年が経った。
20代から30代は毎日楽しくお酒を飲んでいて、子育てに忙しかった40代は週末のお楽しみとして飲んでいた。
そして昨年、50代に入り「ここから後半の人生は、飲まない人として生きてみるのもおもしろそう」と思ったのだ。
そう話すと、「いやー、それだけは無理!」という反応がお酒好きな人から返ってくる。
そう思ううちはやめなくていい気がするし、そのままの言葉で伝えている。
わたしの場合、文字通り「Sober=しらふ」「Curious=好奇心」、つまり、飲まない生活によって自分はどんなふうに変われるのか?という興味から、お酒を断った。
あんなにお酒が好きだったわたしが、「飲まない人」になるなんて!
新しい自分に生まれ変わることにワクワクする気持ち100%で、飲みたいのに飲めない、といったつらさはまったくなかった。
好きな仕事をする日々がお酒というごほうびを超えた
お酒のおいしさも楽しさも十分知っているから、ソバーキュリアスというライフスタイルが気になりながらも、なかなか踏み切れない人の気持ちも、よくわかる。
わたしの場合は、飲んだ日は眠りが浅く、目覚めのときに頭と体がだるいと感じることも動機としてはたらいたのだけど、お酒をやめてみたら、そうした悩みはすべて解消され、体調は格段によくなった。
また、何よりうれしいのが「一日のなかで使える時間」が増えたこと。
以前は、夕食時にお酒を飲むと、心身がほぐれてリラックスする一方で、眠気も感じやすく、キッチンの片づけをやるのがせいぜいだった。
ところが、お酒を飲まないと、夜の時間をまだまだ使える。
本や雑誌をめくったり、Voicyの収録をしたり、昼間の執筆中に届いていたメールやコメントの返事をまとめて返したり。
夕食後もまだ仕事をするというと、ワーカホリックに映るかもしれないけれど、今は、自分がやりたいと思うこと、やっていて楽しいことが仕事になっている。
だから仕事でストレスはたまらないし、仕事の後にお酒というごほうびもいらないのだと思う。
さくっとごはんを済ませて、また好きな仕事や趣味の時間に戻れる喜びは、晩酌の楽しさを超えていた。
大きなものを手放すとそれ以上が入ってくる法則
お酒に限らず、好きだったもの、これがない生活なんて考えられないと思っていたものほど、思いきって手放してみると、同等以上に価値あるものが入ってくるようだ。
以前ほどのよさを感じられなかったり、実は手放した方が心地よくなれるのかも?という気がしているなら、恐れずやってみると、新しい世界が目の前に広がる。
後半の人生に入ったわたしが今、なにより心がけているのは「軽やかでいる」ということ。
これまでのかたちに固執しないで、どんどん変わり続けたいと思う。
そう考えると、お酒をあっさりやめられた一番の理由は、朝の体と頭の「重さ」がわずらわしかったからかもしれない。
深く眠り、シャキッと目覚めて、朝から軽やかに動ける体を、お酒と引き替えに手に入れた。
自ら足を踏み込んだこの新しい世界は、心身ともに軽く、すこやかで、とても気に入っている。
作家プロフィール
小川奈緒(おがわなお)
エッセイスト、編集者
築47年の縁側つき和風住宅に暮らしながら、イラストレーターの夫・小池高弘と中学生の娘と暮らす。最新刊『すこやかなほうへ 今とこれからの暮らし方』(集英社)、近著『ただいま見直し中』(技術評論社)など著書多数。instagram:@nao_tabletalk
小池高弘(こいけたかひろ)
イラストレーター
のびやかで抜け感のある線画で、書籍や雑誌の挿画、オーダー作品などを手掛ける。小川奈緒との夫婦作品に『心地よさのありか』(パイ インターナショナル)、『家がおしえてくれること』(KADOKAWA)などがある。instagram:@takahiro_tabletalk