読み物
【小さなベランダ&庭のある暮らし】第9回 ギャラリーカフェオーナー・森田わかなさん/私にちょうどいい、食べられる庭。
writer 石川理恵
人それぞれの「自然とのつながり」をテーマに、この連載ではベランダや庭のあるお家を訪ねます。
第9回目に登場するのは、デザイナーであり、ギャラリーカフェ「HOUSE1891」のオーナーでもある森田わかなさん。
海辺の街で、ハーブを育てながら心地よく暮らす様子を取材しました。
家の前に設えた、小さなハーブガーデン
海まで歩くこと数分。なだらかな山々に囲まれた神奈川県葉山町の古い一軒家で、森田さんは月のはじめの5日間だけギャラリーカフェをオープンし、暮らしています。玄関のアプローチ沿いに立っているのは、シンボルツリーの夏みかんの木。足もとに、レモンバーベナ、ホワイトセージ、ローズマリーなどのハーブが清々しく葉を茂らせています。
その花壇の脇に、すき間を埋めるような配置でふたつのレイズベッド(イギリス式花壇)がありました。ウッドデッキを修復した際、端材が出たのをきっかけに、設えたそうです。
「畑を借りるのもいいけれど、私にとっては庭先でこのぐらいを育てるのが、手に負えるサイズです。即興で料理をするのが好きなので、ちょっと使いたいなあと思った時に、料理の途中でハーブを摘みにいけるのがうれしくて、“食べられる庭”と呼んでいます」
体の声を聞きながら暮らす
今から15年以上前、森田さんは小学生だったひとり娘を連れて、イギリスでファームステイをしたことがあります。すてきな老夫婦が営むオーガニックの農園を手伝い、お休みの日にはピクニックをして、自然のサイクルとともにある暮らしを少しだけ肌で感じました。
「親として、子どもに残してあげられるものは何もないけれど、体験だけは残してあげたかったんです」
その後、仕事が楽しくてオーバーワークしたり、体調を崩したりとさまざまな時期を経て、今では自分自身の体の声を聞きながら毎日を送れるように。気候のいい時季の朝は海で泳ぎ、空腹になったら体が喜ぶ料理を食べて、時に海辺で沈む夕陽をながめ、夜はぐっすりと眠る。そんなサイクルで暮らしていると、いつもハッピーでいられるのだそうです。
大切なのは、心地よくあること
心地よく暮らしたい森田さんにとって、日々掃除をし、風を通して家のなかを整えるのも、大切にしている習慣のひとつ。そして、空間の居心地のために欠かせないのが植物たちです。
「植物は、どれだけあってもジャマになるどころか、重なり合うことでますます心地よさをもたらしてくれます。育たないことがあったとしても、それも自然です。コントロールのできないことに向き合っているから、植物に関わっていると『絶対にこうしなくちゃ』のようなものがなくなっていくんですよね」
料理の味つけから、旅の行く先、仕事の選択まで、何事も「感覚で決めるほうがだんぜん楽しいし、うまく進みます」と話す森田さん。自然とともにある暮らしは、直感を研ぎ澄ますことにつながっているのかもしれません。
撮影/砂原文
取材・文/石川理恵
取材・協力
森田わかな(もりたわかな)
デザイナー・ギャラリーカフェオーナー
カンボジアの伝統的な万能布、クロマーをプロデュースする「クロマニヨン」主宰。また、毎月はじめの5日間、神奈川の葉山一色にて、ギャラリーカフェ「HOUSE1891」をオープン。長岡式酵素玄米を主役にした、野菜中心の創作デリを提供している。https://krama100.com/
作家プロフィール
石川理恵(いしかわりえ)
編集者・ライター
雑誌や書籍でインタビューを手がける。著書に『時代の変わり目をやわらかく生きる』(技術評論社)、『自分に還る 50 代の暮らしと仕事』(PHP 研究所)他。東京・豊島区のアパートの一室に、小さな週末本屋をオープン。instagram:@rie_hiyocomame