読み物

vol.1 袖をまくってみたい

窓の外に広がる青空と庭の陽だまりにひかれ、コートも着ずに外へ出た。

まだ寒いかと思いきや、それでよかったみたい。

軒下で陽を浴びた空気は、昨日よりも暖かかった。近所の並木通りを包む空気が、ぐっと やわらかくなった気がする。

冬の気配はもう遠くへと行ってしまって、浅い春が手に届くところまでやってきた。

そんなものだから、ブラウスにベージュのワイドパンツなんて、ゆったりとした格好のまま、ひと気のない陽だまりの下を散歩したくなる。

春の淡い匂いを感じながら浴びる陽射しがきもちよくて、つい袖をまくった。カフスの幅が広いから、袖のボタンを留めたまま、腕にひっかかるところまで。

軽くひっぱると、ちょうど肘の下で止まる。

「へぇ、案外……」

すっきりと、まくり上がるもんだね。

素肌にふれる春の感じが、妙に小気味よくて楽しい。

【作家プロフィール】
ななくさつゆり/小説家・ライター
眺めるように読める詩や小説、読む人のこころにふれる、情景が浮かぶようなストーリーを作る。

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