読み物

vol.13 六月のオフの日

昨日、雨が降った。

起き抜けにクロワッサンをトースターに差し入れ、冷蔵庫からレモンバターの瓶を取り出す。

テーブルに置くと、トンと音が鳴った。
つづけて母がリビングに入ってくる。
「おはよう」
「おはよう。お仕事は休み?」
「うん」
母は電気ケトルに水を注ぎ、お湯を沸かしはじめた。
「それより。クロワッサン、いくつにする」
「ひとつ。出かけるなら一応、傘を持っておいき」
言われたままにクロワッサンを追加で入れ、ツマミをひねる。
今日は、花柄を小さく散らしたリネンのワンピースを選んだ。
縦に落ちるシルエットのさりげなさ。ニットのカーディガンを羽織って、いつでも出かけられるように。
「……降るかな」
レースのカーテン越しに見た今朝の空は、薄鈍びた雲を透かす日の光の乳白色……といったところ。
でも、窓を開けてみたら、思いのほか涼しかった。
雨上がりの風が、昨日の湿りけをどこかへとさらってしまったみたい。

そこで感じるままに、
「意外と晴れるかもね」
なんて、言ってしまったものだから。

降りだしたみたい。

作家プロフィール
ななくさつゆり/小説家・ライター
眺めるように読める詩や小説、読む人のこころにふれる、情景が浮かぶようなストーリーを作る。

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