読み物

vol.15 パラソルはさしたまま

友人宅で束の間のコーヒーブレイクを楽しみ、お暇しようとしたときに、ふと。

窓ガラスに雨粒のあと。

うっすら、潤う縦糸のような線がいくつか走っていた。
「降ってたっけ?」
と、尋ねれば、
「どうだろ。そろそろ晴れてきそうだけどね」
なんて、ユルい答えが返ってくる。
「まァ、いっか」
と笑って肩をすくめ、鞄の黄色い折りたたみ傘に手を添え、玄関を出た。刺繍が入ったイエローの傘。なにげに、晴雨兼用の便利なやつ。

ここしばらくの雨もあり、傘をさして歩くのがクセになった自分は、帰りも雨を予想していた。
それなのに、実際はそこかしこに余韻を残すだけ。いまや外は陽の光をたっぷりと受け入れながら、静かに晴れようとしていた。
「まァ、途中で降るかもしれないし?」
折りたたまずにそのまま、晴れていくようすを楽しむように、照り返してまぶしい坂道をくだっていく。
傘にたまる陽ざしの温もり。歩くごとになびく裾や袖。ぬるい風に、雨と土の匂いがまじっていた。
親指を人差し指でさすると、湿っぽくて濡らしたようによくすべる。
雨があがっていた。

作家プロフィール
ななくさつゆり/小説家・ライター
眺めるように読める詩や小説、読む人のこころにふれる、情景が浮かぶようなストーリーを作る。

読み物カテゴリー一覧
ページトップへ