読み物

vol.16 麻のサンダル

ついこのあいだまでの、雨がまるでウソみたい。

雨続きでぼんやりしていた鈍色の空は、今朝になるとすっかり晴れ渡っていた。

空は透きとおって高く、青々としていて、あらたな季節の訪れを感じさせてくれる。

庭に出ようと大口の窓を開けたら、外にたまった草いきれが部屋に流れ込んできた。風に、長雨の残り香がまじっている。
そのまま麻のサンダルを片手に提げて、縁側に出た。
ジュートのソールに平織りのキャンバス生地を張ったサンダル。パステルブルーの帆布が、陽光を吸うようにして明るくよく馴染む。

「さて!」
今日は水をあげなきゃ。
鉢植えたちが、物欲しげにじっとこちらを見ている気がするから。
「それにしても、あっつ……」
そう。この時期はたいてい、こんな感じ。
風を浴びるまで忘れていた、むわっとする空気。
こめかみや首すじに汗を誘うひざしの熱。

はじまってるね、夏。

作家プロフィール
ななくさつゆり/小説家・ライター
眺めるように読める詩や小説、読む人のこころにふれる、情景が浮かぶようなストーリーを作る。

読み物カテゴリー一覧
ページトップへ