読み物
vol.20 明日をドアに飾って
よそいきの服を選ぶだけの、軽やかなひととき。
静かで、そこはかとなく固い空気をかきわけるように手を伸ばし、コートラックから白のギャザーブラウスを取り出した。
きれいめな薄地で、ドルマンスリーブの余白のような白の余裕が、腕まわりをすっきり見せてくれる。
まだ暑さが抜けきれない。そんな中でも、このコは風を通してくれて快適。
肩のあたりを握ってかかげ、ハリ感のあるチェックのスカートに合わせたときの風合いを想像した。
「明日の服は、コレかな」
この瞬間が、好き。
そうと決めてしまったら少し待つ。
すると、
「ん、きたきた」
自分の内側から、じんわりと沸いてくるうれしい感じ。
アガると言っていいものか。
ひそやかにワクワクする自分がいた。
ひととおり選んでしまったら、ハンガーに通してドアフックに引っかける。
ドアに飾って、あとはその前にかがんで膝立ち。
コーデを眺めて楽しむのだ。
「ふっ」
うんと頷くつもりが、鼻息が吹き出た。
そのあと含み笑いしつつ、
「……うん」
と、ひとり納得する。
おしゃれって、楽しい。
文/ななくさつゆり・小説家
眺めるように読める詩や小説、情景が浮かぶようなストーリーを作る。
イラスト/poe
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