読み物

vol.21 チュニックと秋の夕陽色

夏の気配がすこしずつ薄れていく。

今日は風があるから、ひさしぶりに空調を切ったまま一日を過ごすことができた。

夕方の、網戸越しの風に交じる秋の匂いに惹かれ、網戸の匂いが感じられるくらいの窓のそばに座り込む。うちわをお守りのように、手もとに添えて。

外に視線をやれば、生垣の向こうにアキアカネが飛んでいる。
生垣のはしばしに艶めく茜色の光の粒がこちらの目をひいた。

夕の陽が音もなく差し入ってきて、こちらをのぞき込んでくる。
つられるように見上げれば、空は濃い青に薄紫の色味がまじり、その下に白い帯が横たわっていた。

着ていたベージュのチュニックシャツに、外からのやわらかい光が溜まっていく。
麻のチュニックは、陽ざしが乗ってもなお軽かった。
片膝を立てて座っていても、流れるようなハリ感が、自然で落ちつきのあるシルエットのまま、居させてくれる。
人差し指の腹を、生地にそっと滑らせた。陽ざしに触っているみたいで、笑みがもれる。

ふと、秋の夕陽を受け入れるすきまがほしくなって、腰に留めるリボンベルトをゆるめた。
静かで、穏やかで、陽のあたる場所にとけこむようで、夕暮れ時にいっそうなじんでいく。

風が立った。

文/ななくさつゆり・小説家
眺めるように読める詩や小説、情景が浮かぶようなストーリーを作る。

イラスト/poe

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