読み物
vol.4 春とともに着る
道端の澄んだ空気がそこはかとなくあたたかい。
近所のデリまで、評判のさつまいもブレッドと塩メロンパンを買いに出た。
「春の匂いがするね」
そんなことをつぶやきながら歩くか歩かないかのうちに、雲のむれが太陽をさえぎり、街に影をおろす。
遠くに見える晴れ間も、しだいに薄鈍びた雲が淡く覆い隠した。
今朝の、乾燥して爽やかだった晴れの空気はしめりけを帯びたそよ風になって、私の頬や服の端々にふれてくる。
今日は、エメラルドグリーンのニットブラウス。大ぶりな襟が風にあたっているのがわかった。
スカートも、風に馴染もうとして裾がゆっくりとはためいて……おっと、そういえば今日はスカートじゃなかったね。スカートに見まちがうくらいには大きな黒いワイドパンツ。この子たちはきっと、この春とともに着ていられる。
春まっただなか。たとえ晴れでも曇りでも、こうして過ごす今こそが、自分に馴染んで好ましく思う。
【作家プロフィール】
ななくさつゆり/小説家・ライター
眺めるように読める詩や小説、読む人のこころにふれる、情景が浮かぶようなストーリーを作る。
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