読み物
vol.7 ストローハット
せっかく、高原のキャンプ場までやってきたんだから、早々に設営を済ませ、フリーサイトの人だかりと賑わいからそっと離れてみようと思った。
林間サイトの端にある清流のそばで、落ちついてみたい。
「山と川の匂いがする」
かすかに湿りけを含む柔らかい空気が私を包んだ。たどりついてみれば思いのほか静かで、さっきまで感じていた人だかりも賑々しさも、遠巻きにやれば周囲の林のさざめきに混じってしまう。それで今は、なだらかな清流沿いをのんびりと歩いていた。
つい、せせらぎを聴きたくなって、光がちらつく水面のそばにしゃがみこむ。木漏れ日に馴染むストローハットを傾け、帽子のつばに指先をあてるようにして、耳を澄ました。
涼しげな音。
枝から離れた葉が水面に触れる音すら、拾ってしまえそう。
「涼しい、か……」
もうすぐ、夏が来るんだね。
【作家プロフィール】
ななくさつゆり/小説家・ライター
眺めるように読める詩や小説、読む人のこころにふれる、情景が浮かぶようなストーリーを作る。
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