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エッセイスト・小川奈緒さん連載【だから暮らしはおもしろい】vol.11  大人の誕生日は日常の続きで祝いたい

ケーキのイラスト

writer 小川奈緒、illustrator 小池高弘

家づくりや暮らしにまつわる多くの著書や、音声メディアVoicyでも人気のエッセイスト・小川奈緒さんによる、毎日をちょっと楽しく、豊かにしてくれる連載コラム【だから暮らしはおもしろい 】。

毎月第1・3月曜日に更新中です!

誕生日に向き合う意識の変化

今年の誕生日は、偶然にもこのコラム連載の更新日と重なった。

夫も8月生まれなので、毎年この時期はわが家のお祝い月間となる。

けれど、祝い方や過ごし方は、年々シンプルになっている。

夫は、一人っ子のせいもあるのか、子どものころから家族や親戚にちゃんとお祝いをしてもらいながら育ってきた人で、50を過ぎた大人であろうと、自分の誕生日はもちろん、わたしや娘の誕生日もイベントとしてしっかり祝いたいという意識が強い。

一方でわたしは、40代を過ぎてから、徐々に誕生日を特別視しなくなってきた。

誕生日は、一日一日を積み重ねるなかで、365日周期で巡ってくる一日であり、そこに「非日常感」や「お祭り感」はとくにいらない。

何か意識を変えるきっかけのできごとがあったわけではなく、年々、少しずつの変化が積み重なって、昔とは大きく違うものになっていた、という感じ。

非日常の贅沢より日常の豊かさ

花瓶に生けられたお花と読みかけの文庫のイラスト

ちょっと理屈っぽいかもしれないけれど、わたしたちは誕生日当日にいきなり1つ歳を重ねるわけではなく、毎日、その日過ごしたぶんだけ人生を積み重ねている。

もちろん、つねにその自覚を持って過ごすことは、むずかしいけれど。

それでも、年に一度の「非日常な贅沢」より、毎日でも「この日常が好き」と思えること。今の自分が望むのは、そっちなのだ。

だから、結婚以来10年ほど続けたサプライズでの夫婦間のプレゼント交換も、今は方針を大きく変えて、その年その年で、自分たちにとって最良と思える過ごし方を二人で相談して決めるようになった。

一緒にお金を出し合って日常が豊かになるアイテムを買う年もあれば、モノの買い物はなし、という年もある。

昨年は夫からは花束をもらい、わたしからは夫の好物ばかりを並べた手づくりの夕食をプレゼントした。

家で過ごすことが大好きなわたしたちにとって、リビングに普段よりボリューム感のある花を飾ることや、国産うなぎを取り寄せて食卓に並べることが、そのとき思いつく中で最高に心が満たされることだった。

普段から数ミリだけ外側に広げて祝う

野外音楽フェスティバルのイラスト

人生というストーリーは日常の積み重ねでしかない、とは思いつつも、もちろんイベントは、まったくないより、ときどきはあった方が楽しい。

けれど誕生日という、毎年必ず同じ日に巡ってくる一日は、そんなに大げさにとらえないで、日常の延長線上、または日常から数ミリ外に広げた範囲で過ごすくらいが、今はちょうどよく思える。

それはたとえば、普段のおやつは自分でつくる素朴な焼き菓子なのを、その日は近所のケーキ屋さんで予約した繊細な生菓子にするとか、徒歩で行けるレストランでランチするとか、その程度でいい。

ちなみに今年の誕生日プレゼントは、8月に開催される野外音楽フェスの家族分のチケットをワリカンで買うことに決まった。

相手が必要かどうかわからないモノを、悩みながら買って贈ることに時間とお金を使うのではなく、一緒に行きたい場所を相談して、お金を出し合う。

10年前とはずいぶん違う誕生日の祝い方だけど、このスタイルが、今の自分にはしっくりくるのだ。

作家プロフィール

小川奈緒(おがわなお)

エッセイスト、編集者

築47年の縁側つき和風住宅に暮らしながら、イラストレーターの夫・小池高弘と中学生の娘と暮らす。最新刊『すこやかなほうへ 今とこれからの暮らし方』(集英社)、近著『ただいま見直し中』(技術評論社)など著書多数。instagram:@nao_tabletalk

小池高弘(こいけたかひろ)

イラストレーター

のびやかで抜け感のある線画で、書籍や雑誌の挿画、オーダー作品などを手掛ける。小川奈緒との夫婦作品に『心地よさのありか』(パイ インターナショナル)、『家がおしえてくれること』(KADOKAWA)などがある。instagram:@takahiro_tabletalk

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