読み物
エッセイスト・小川奈緒さん連載【だから暮らしはおもしろい】vol.13 金継ぎを通して「直しながら使う喜び」を知る
writer 小川奈緒、illustrator 小池高弘
家づくりや暮らしにまつわる多くの書籍を手がけ、音声メディアVoicyでも人気のエッセイスト・小川奈緒さんによる、毎日をちょっと楽しく、豊かにしてくれる連載コラム【だから暮らしはおもしろい 】。
毎月第1・3月曜日に更新中です!
自然の力を借りて壊れたうつわを直していく
日本に古くから受け継がれてきたうつわの修復法として、国内のみならず海外でも注目されている、金継ぎ。
わたしはというと、12年前に雑誌の特集を見ながら好奇心でやってみたのがはじまりで、以来ずっと、日常の一部に組み込まれつづけている。
最初は、合成うるしや接着剤を用いる簡易的な手法による金継ぎからのスタートだったけど、うつわを割ったり欠けさせたりしても、自分の手で直してまた使えると知った喜びはとても大きかった。
また、直した跡を隠さずに、むしろデザインとして目立たせてしまおうという昔の人の大胆な発想にも感激した。金継ぎってなんてカッコいいんだろう、と。
やがて、本漆を使う伝統的な技法にも興味がわき、まずは本を見ながら独学で挑戦。
そのうち、ちゃんとプロから教わってみたくなって、通った教室で素晴らしい先生と出会い、今ではその方をわが家に講師として招いて、ワークショップを開催している。
地道な作業のゴールにあるもの
わたし自身の金継ぎの腕前はいつまでもアマチュアレベルだけど、金継ぎの作業自体が楽しいし、金継ぎの文化に魅了された者として、この魅力を多くの人に伝えられたらと思っている。
本漆を扱う金継ぎは、漆にかぶれるリスクがあったり、漆が硬化するのを待つ時間をはさんだりと、簡易的な金継ぎより何倍も手間ひまがかかる。
けれど、傷を負ったうつわを、気温や湿度など自然の力を借りながら、ゆっくりゆっくり直していくところに、人生にも通じるような味わい深さを感じる。
焦ったり、細かい部分に気を抜いたりすれば、それは仕上がりに必ず影響する。
逆に、地道に工程を重ねていけば、最後は、新品よりずっと美しいオーラをまとった姿に生まれ変わる。
最後に漆を塗り、金粉を蒔いて、ダメージだった箇所が一転、再生の輝きを放つ瞬間は、うつわと二人三脚でゴールテープを切ったかのような感動に包まれる。
最高にカッコいい日本生まれのDIY
金継ぎが身近になって、お気に入りのうつわを日常的に使えるようになったのもよかったことの一つだ。
せっかく縁あって迎え入れたうつわは、毎日でも使って、親密に付き合いたい。
もしアクシデントで傷を負わせてしまったとしても、そのときはていねいに直せばいいのだから。
もしわたしがうつわだったら、そんなふうに使ってもらえる自分を誇らしく感じるだろう。
そして実際、金継ぎしたうつわを食卓に並べると、むしろ無傷のうつわより、堂々とした風格を漂わせているように見えるのだ。
うつわも、人も同じで、長く現役ではたらきつづける姿には、若くピカピカな存在には出せない渋みと説得力がある。
そう考えると、年齢を重ねるなかで金継ぎを趣味としながら暮らしていくことは、いろんな意味で元気をもらえそうだ。
これからも、この最高にカッコいい日本生まれのDIYを楽しんでいきたい。
作家プロフィール
小川奈緒(おがわなお)
エッセイスト、編集者
築47年の縁側つき和風住宅に暮らしながら、イラストレーターの夫・小池高弘と中学生の娘と暮らす。最新刊『すこやかなほうへ 今とこれからの暮らし方』(集英社)、近著『ただいま見直し中』(技術評論社)など著書多数。instagram:@nao_tabletalk
小池高弘(こいけたかひろ)
イラストレーター
のびやかで抜け感のある線画で、書籍や雑誌の挿画、オーダー作品などを手掛ける。小川奈緒との夫婦作品に『心地よさのありか』(パイ インターナショナル)、『家がおしえてくれること』(KADOKAWA)などがある。instagram:@takahiro_tabletalk