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エッセイスト・小川奈緒さん連載【だから暮らしはおもしろい】vol.17 手を動かすと心身が整う、庭そうじのセラピー効果
writer 小川奈緒、illustrator 小池高弘
家づくりや暮らしにまつわる多くの書籍を手がけ、音声メディアVoicyでも人気のエッセイスト・小川奈緒さんによる、毎日をちょっと楽しく、豊かにしてくれる連載コラム【だから暮らしはおもしろい 】。
毎月第1・3月曜日に更新中です!
落ち葉とそうじの追いかけっこの季節
今年も落ち葉そうじに追われる季節になった。
広い庭をうらやましがっていただくことも多いけれど、手入れも自分でやっているから、この時季は時間も体力も費やす家事が一つ増えて、ますます日々が忙しい。
梅、紅葉、ハナミズキ、杏などの木々の葉っぱが、赤や黄色に色づいたと思ったら、やがてはらり、はらり、と枝から落ちはじめる。風景としては趣があるものの、芝生の庭なので、落ちた葉はどうしても目立つ。
だから毎日、庭に出て、熊手や竹ぼうきでサーッ、サーッと掃く。
この時間はエクササイズなのだと考えて、腕を大きく動かし、意識的に腹筋を使って腰を落としながら作業すると、すぐに体がポカポカしてくる。
ちょっと時間がかかりそうな日は、ワイヤレスイヤホンでVoicyを聴きながら取り組めば、その時間はさらに有意義に感じられる。
そうじ道具も風景の一部
庭のある家に住むまで、ガーデングッズにはとくに強いこだわりもなく、引っ越してすぐにホームセンターで間に合わせるように揃えた。
竹ぼうきだけは、単純にそうじがしやすいからという理由で最初から選んでいたけど、それ以外は、ちりとり、ホース、ジョーロなどはプラスチック製を使っていた。
そこから一転して、庭の道具こそ素材感や質感が大切と考えるようになったのは、ある年の雪がきっかけだった。
夜の間に凍結しないように、ナイロンの毛のデッキブラシで庭のタイルやコンクリート部分を擦っておくと、ブラシの毛の経年劣化で抜け落ちがはげしく、翌朝見ると、白い雪に緑のナイロンの毛がたくさん混じっている様子が、なんだかとても不自然で、興醒めに感じたのだった。
一方、竹ぼうきの細い枝は、抜け落ちても地面になじみ、風景に溶け込む。
劣化して買い替えるときも、ワイヤーをほどいて竹の棒と細い枝にバラし、短くカットして燃えるごみとして捨てられる。
素材によって、自然と調和する、しないの違いをはっきり自分の目で確認して以来、道具選びには「庭の風景に溶け込むかどうか」という視点が加わった。その結果、熊手も竹製、ちりとりやジョーロはブリキ製、ホースリールは鉄製。プラスチック製品は基本的に黒を選ぶことが多い。
心と暮らしを整える時間
禅寺では、季節に関係なく、落ち葉があってもなくても、毎日竹ぼうきでそうじをするのが修行だという。たしかに、わたしも毎年この季節になると、家事をしながら自分の心身を整える修行を重ねているような気分になる。
もちろん日によっては面倒だったり憂鬱だったり、「こんな体力仕事、一生続けることはできないな」などと思ったりもする。
それでも腰を上げてやってみれば、そうじを終えた後は必ず清々しい気分になって、それはまるで大好きなヨガと同じなのだ。
どちらも、ただ体を動かし、手を動かし、いつしか無心になって、一連の工程を終えるころには、不思議なくらいに頭がスッキリしていることが共通している。
だから、なんだかんだ言っても、わたしはこの落ち葉掃きという家事が嫌いじゃないのだろう。
ご近所さんと顔を合わせる頻度が多くなるのも、この季節ならでは。
天気のことや、家族の近況など、お互いほうきを持つ手を動かしながら、短い会話のやりとりをする。その時間も、暮らしのなかのちょっと味わいのある一コマといえるのかもしれない。
作家プロフィール
小川奈緒(おがわなお)
エッセイスト、編集者
築47年の縁側つき和風住宅に暮らしながら、イラストレーターの夫・小池高弘と中学生の娘と暮らす。最新刊『すこやかなほうへ 今とこれからの暮らし方』(集英社)、近著『ただいま見直し中』(技術評論社)など著書多数。instagram:@nao_tabletalk
小池高弘(こいけたかひろ)
イラストレーター
のびやかで抜け感のある線画で、書籍や雑誌の挿画、オーダー作品などを手掛ける。小川奈緒との夫婦作品に『心地よさのありか』(パイ インターナショナル)、『家がおしえてくれること』(KADOKAWA)などがある。instagram:@takahiro_tabletalk