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エッセイスト・小川奈緒さん連載【だから暮らしはおもしろい】Vol.4 愛しい家具の買い替えは、「手放す」より「引き継ぐ」気持ちで
writer 小川奈緒、illustrator 小池高弘
家づくりや暮らしにまつわる多くの著書や、音声メディアVoicyでも人気のエッセイスト・小川奈緒さんによる、毎日をちょっと楽しく、豊かにしてくれる連載コラム【だから暮らしはおもしろい 】。
毎月第1・3月曜日に更新中です!
自宅でワークショップを始めたら
12年間、リビングで愛用してきた3シーターのソファを買い替えることにした。
昨年からスタートした自宅ワークショップでは、リビングとダイニングと縁側を使って、金継ぎや花、絵本、養生にまつわるレッスンやイベントを行なっている。
毎回の内容によって椅子の配置を変えるのだけど、「ソファがなければ動線がもっとよくなるのに」と感じることが増えた。
もともと自宅ワークショップを始めたのも、子どもが中学生になり、家族でリビングを使う時間が減ったことが、理由の一つにある。
縁側のある家としてメディアの取材はたびたび受けるのに、実際には家をうまく生かしきれていないのではないか、という気持ちが、構想のきっかけとなったのだった。
この家に興味を持ってくれる人たちが、友人や知人でなくても、または取材を目的としていなくても、集うことができるようにと、ワークショップというかたちを思いついたのだった。
家具に求める役割が変わってきた
つまり、家族の成長とともにライフスタイルが変化し、家具に求める役割も変わってきたといえる。
12年前の価値観では、リビングにはソファを置くもの、と信じて疑わなかったし、いろんなお店を見て回った末に選んだ革のソファは、幼い娘が寝転がってテレビを見るのにちょうどよく、もちろん見た目も気に入っていた。
でも今、ソファを手放して、新たに迎え入れようとしている家具は、もはやソファではない。
折りたたみができる一人がけの椅子で、それを2脚、置くことにした。
材質は木と革だけど、片手でひょいと持ち運べるほど、軽い。
家具に求める条件として、この軽さが、現在の優先度としてはとても高い。
ワークショップで空間を多目的に使う以外に、日々のそうじやヨガにおいても、家具をラクにどかせるメリットを強く感じているからだ。
時おり、ごほうびのように手にする余白の数時間に、ここで本が読みたくなったら、一人がけの椅子の前にオットマンやスツールを置いて足を投げ出し、読書に没頭しよう。
結局昼寝しちゃった、なんてことにもならず、時間の使い方としての満足度も上がるような気がする。
大切なものだから引き継ぎもていねいに
何かを買い替えるとき、新しいモノ選びと並行して動くのが、古いモノの引き継ぎ先探し。
今は、粉々に割れて修復不可能な陶磁器でもないかぎり、「捨てる」は選択肢としてギリギリまで持たないことにしている。
メルカリも頼りになるけれど、今回の大型ソファは、なるべく知り合いに譲りたいと思った。
愛着のあるものだし、「手放す」より「引き継ぐ」という気持ちで、喜んで使ってくれる相手に直接渡したい。
インスタグラムでつながっている知人のなかからピンときた相手に、ソファの写真とともに事情を送ると、「ちょうどソファが欲しくて探しはじめたところだったからメッセージを見てびっくりした。ぜひ受け継がせてほしい」とうれしい返事が届いた。しかも、こちらに新しい椅子が届く直前に、トラックで引き取りにきてくれるという。
約束の日の前日は、12年という時間を一緒に過ごしてくれたソファに、感謝の思いを伝えながら、すみずみまできれいにして、革の手入れもしよう。
そして、新しいあったかい家族のもとへ、笑顔で手を振って送り出すのだ。
作家プロフィール
小川奈緒(おがわなお)
エッセイスト、編集者
築47年の縁側つき和風住宅に暮らしながら、イラストレーターの夫・小池高弘と中学生の娘と暮らす。最新刊『すこやかなほうへ 今とこれからの暮らし方』(集英社)、近著『ただいま見直し中』(技術評論社)など著書多数。instagram:@nao_tabletalk
小池高弘(こいけたかひろ)
イラストレーター
のびやかで抜け感のある線画で、書籍や雑誌の挿画、オーダー作品などを手掛ける。小川奈緒との夫婦作品に『心地よさのありか』(パイ インターナショナル)、『家がおしえてくれること』(KADOKAWA)などがある。instagram:@takahiro_tabletalk