読み物
【岡本典子の新月花屋・4月】ひとつの花に、咲き終わるまでいくつもの楽しみがあります。
writer 石川理恵
新月は、気持ちをあらたにする日。
ふだんは時間に追われがちな人も、この日ばかりは自分のために花を飾ってみませんか。植物の力がきっとやすらぎをあたえてくれます。
ここは新月だけオープンする小さな花屋。
店主・岡本典子が、出合った花の魅力や花づきあいについて語ります。
まずはシンプルに1種類で飾る
今朝の市場で、私はとびきりのクリスマスローズと出合いました。
花びらのグラデーションが美しく、深いワインレッドの色味が茎や葉脈にも行きわたっています。茎の毛羽立つような質感はシルバーがかっているようにも見えて、角度によって表情が変わることに魅せられたのです。
まずはシンプルにガラスの花瓶へ投げ入れ、長いままの姿を堪能しましょう。
同系色の花で束ねてみる
花は一度飾ったら、ずっと同じでなくてもいいのです。
今日はどんなふうに飾ってみようかと、その日の気分でアレンジを変えていけば、最後まで味わいつくせます。
このクリスマスローズに似た色合いのレースフラワーを見つけて、一緒に束ねることを思い立ちました。同系色の花をまとめるときは、花の形状、軽さ、質感の違うものを選ぶと、すべての花が引き立ちます。
存在感のあるクリスマスローズとは対照的な細かい花びらを持つスカビオサと、エアリーなレースフラワーを合わせたところで、ふと香りがプラスしたくなり、フレッシュなゼラニウムの葉をしのばせることに。
植物たちの相乗効果によって生まれた世界感に、またときめいてしまうのでした。
小さくなった姿を愛でる
毎日水を替え、茎を切ってきれいな水を吸わせるのが、花を長持ちさせるための基本。
そうしてだんだんと花の丈が短くなったら、私はよくガラス瓶やコップに分けて生け直します。
小さく生けるメリットは、食事中のテーブルに並べてもさりげないこと。大きな花瓶を置くのは場所を選ぶけれど、小さな花はお皿の合間にあちこち置けるのです。
一カ所に集めたいときにはトレーに並べると、インテリア性も高くなって水替えなどの持ち運びもラクに。
命ある花は枯れていくのが自然の摂理です。だからこそ、その時々のベストな姿を引き出したいと思うのかもしれません。
短くなった花たちを、思い切って水に浮かべてみたら、神秘的な美しさが生まれました。
心をふるわせてくれたクリスマスローズに、最後まで新鮮な気持ちのままで向き合えたことに喜びを感じます。
撮影/安永ケンタウロス
スタイリング/岡本典子
聞き手・文/石川理恵
作家プロフィール
岡本典子(おかもとのりこ)
花生師 ハナイケシ
植物をこよなく愛し、メディアや広告、展示会などで植物を通した表現を手がけるほか、アトリエ「Tiny N」を不定期オープン。著書に『花生師 岡本典子の花仕事』(誠文堂新光社)、『花生活のたね』(エクスナレッジ)など。instagram:@hanaikeshi
石川理恵(いしかわりえ)
編集者・ライター
雑誌や書籍でインタビューを手がける。著書に『時代の変わり目をやわらかく生きる』(技術評論社)、『自分に還る 50 代の暮らしと仕事』(PHP 研究所)他。東京・豊島区のアパートの一室に、小さな週末本屋をオープン。instagram:@rie_hiyocomame