読み物

新連載【旅と日常のつながり】第1回 料理家・小堀紀代美さん/旅で自分の味を作る

writer 加藤郷子

記録を残すことが、自分の糧になる

▲以前に書き留めていた旅日記を見返す小堀さん。開いたページには、行きたいと思ったレストランの雑誌の切り抜きが貼ってあり、実際に食べたものや感想などが書き留められていました。
▲いろいろ思い出すこともあるようで、読み返しながら、自然に笑顔がこぼれます。

出張のときも、プライベートの旅行のときも、小堀さんはこまめに旅のノートをつけてきました。行った店のショップカードや雑誌の切り抜きを貼ったり、食べた料理の絵を描いたり、撮った写真を貼り付けたり。ノートの中には自分なりの気づきメモもたくさん!

料理家になる前からの習慣だったので、純粋に旅を楽しむための行動。「英語が得意なわけじゃないから、あくまでも想像だったり、レシピを教えてくれた相手が途中をすっ飛ばしていたり」と笑いますが、そのときの記憶が、今の小堀さんの味を作っていることは間違いありません。

同じ料理をひたすら食べ、写真を撮り、記録に残すーー。

その繰り返しによって、旅がただ一度きりの経験として通り過ぎていくのではなく、自分の中に積み重なり、奥深くなっていく、ということなのでしょう。

▲グヤーシュスープに使うパプリカパウダー。左からハンガリー、台湾(スペイン製)、スペインで買ってきたもの。パッケージがかわいい! 旅先では、スーパーも欠かさずのぞきます。
▲小さいグレーターはアメリカで購入したもの。「ちょっとにんにくをすりおろしたいときに便利」。右は台湾で見つけた麺の湯切り用のざる。木の持ち手に惹かれたそう。持ち手が長すぎたので、少し切って愛用中。ひと手間かけて、愛着もひとしおです。

小さなテーマが旅の奥行きを広げ、暮らしにも役立つ

じつは小堀さん、旅のときは毎回「このメニューを食べ尽くす!」以外にも、小さなテーマを作るのだそう。

「例えば、今回の旅は、赤色ばかりを意識してみようという感じ。そして、ひたすら気になる赤の写真を撮る。

ほかにも、モザイクタイルが好きだから、どこに旅しても写真を撮るのですが、今回は必ず、自分の足を入れて撮ろうと決めてみたことも。椅子ばかり撮っていた旅もありました」

そんなふうに旅先の景色を分解して、琴線に触れるものを意識して写真を撮る。そうすることで、自分の視点も変わり、旅の解像度もぐっと上がるようです。

ものとして、日常の暮らしに持って帰ることはできなくても、自分の中に残るものが大きくなり、日常の暮らしへの作用もありそうな、すてきなアイデア。次の旅から早速試してみたくなります。

今回の取材で、久しぶりに昔の旅日記を見返していた小堀さん。

「記録はあるけど、記憶がないんですよ!」と笑いますが、読み込むうちに、「この組み合わせ、ぜんぜん味は覚えてないけど、おいしそう!」と、再びの発見をされていました。

旅はふとしたときに、自分の暮らしに効いてくる。こうやって、また、旅をもとにした新たなレシピが生まれそうです。

旅のおすそわけ写真①

旅のおすそわけ写真②

撮影/松元絵里子(小堀さん提供分以外)
取材・文/加藤郷子

取材・協力

小堀紀代美(こぼりきよみ)

料理家

料理教室『LIKE LIKE KITCHEN』を主宰するかたわら、雑誌、広告、テレビなどで、レシピを紹介。著書に、『ライクライクキッチンの食後のデザート 予約のとれない料理教室』(文化出版局)、『ライクライクキッチンの旅する味 予約のとれない料理教室レッスンノート 』(主婦の友社)、『予約のとれない料理教室 ライクライクキッチン「おいしい!」の作り方』(主婦の友社)など。instagram:@likelikekitchen

作家プロフィール

加藤郷子(かとうきょうこ)

編集者・ライター

出版社勤務を経て、独立。料理まわり、暮らしまわりの記事や書籍を編集、執筆している。編集を手がけた書籍に『北欧の日常、自分の暮らし』(桒原さやか著)、『日本の住まいで楽しむ 北欧インテリアのベーシック』(森百合子著)など。おうちで通える料理教室『Tabe/Tqu(タベツク)』の運営スタッフでもある。instagram:@chocozai

読み物カテゴリー一覧
ページトップへ