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【旅と日常のつながり】第5回 編集者 堺あゆみさん/旅が、人生の舵をきるきっかけに

旅で、人生が変わることさえある

「自己肯定感低めで、人の目を気にしすぎるタイプ。そのうえ心配性で……」と自分のことを分析する堺さん。でも、旅に出ると、そんな自分から自由になれて、すごくラクになるのだそう。

「地球規模で自分を客観視できて、私の悩みなんて小さいと思える。どんなに大変な状況でも、『大丈夫だよ~』とおおらかに笑い飛ばすような人たちと出会うと、自分も『もっと人生を楽しまきゃ!』と気持ちがリセットされます。どんな自分でもいい、ありのままでいいと言われているようで、自分が好きになれるんですよね」

▲バルセロナの書店で購入した紙製の地球儀。組み立てると立体になり、行った国に赤いピンが挿せるようになっている。

10年ほど前には、今、戦争で大変なことになっているパレスチナに、娘をふたり連れて旅したことも。海外赴任をしていた友人を訪ねるというのがきっかけでしたが、そこで出会った「フリーカ」という穀物のおいしさに魅了され、日本に紹介したいという気持ちが極まって、なんと食品輸入の仕事まで始めてしまいました。

フェアトレードで取り引きできる業者を見つけ出して訪ね、帰国後は何もわからないところから調べて輸入の手続きを進め、PRも自分でこなして、卸販売。紛争地からの食品輸入のハードルは高く、本業である編集業とはまったく勝手の違う仕事に翻弄されながらも、まい進。

旅が、自分の人生の舵をきるきっかけになったといいます。

▲フリーカは、小麦の若い芽を収穫してロースト&乾燥させた穀物。お米のように炊いて、サラダにするのが、堺さんの定番。

子育てや介護のことなどもあり、なかなか自由に旅ができなくなったと感じている今でも、やっぱり堺さんにとって旅は、優先順位の高い大切な事柄。かろやかに旅立ちます。なぜ、そんな決断力、行動力があるの?という問いに、

「じつは予約までしていた母の最初の海外旅行になるはずだった旅が、病気の悪化でいけなくなり、母はそのまま他界。40代でした。そんな経験もあり、『行けるときは行く!』と。ものはなくなるけれど、体験は残ります。視野も大きく広がる。子どもたちにも伝えていきたいと思っています」。

今も、行きたい国はいろいろ思い浮かぶのだそう。旅に出にくい現状も受け入れつつ、それでも、堺さんはきっと、またかろやかに旅立つことでしょう。

▲旅先では食品も購入し、ふだんの食生活に活用している(真ん中の箱が堺さんが魅了されたフリーカ)。
▲エコバッグは旅先でよく入手するもののひとつ。「デザインがすてきなものが見つかるから」。再使用するポリ袋収納に活用。

旅のおすそわけ写真①

旅のおすそわけ写真②

旅のおすそわけ写真③

撮影/松元絵里子(堺あゆみさん提供分以外)
取材・文/加藤郷子

取材・協力

堺あゆみ(さかいあゆみ)

編集者

書籍や雑誌、Web企画などで活躍するフリーランスの編集者。高1の長女、小3の次女の母。築55年近いマンションに暮らす。大学を卒業後、旅行代理店に勤務するが、旅のアレンジよりも自分が旅をしたいのだと気づき、退職。出版社勤務を経て、独立。途上国支援をしたいという学生時代からの夢をかなえ、パレスチナからフェアトレードの食品輸入をする事業を立ち上げる(現在休止中)。Instagram:@editjapan

作家プロフィール

加藤郷子(かとうきょうこ)

編集者・ライター

出版社勤務を経て、独立。料理まわり、暮らしまわりの記事や書籍を編集、執筆している。編集を手がけた書籍に『北欧の日常、自分の暮らし』(桒原さやか著)、『日本の住まいで楽しむ 北欧インテリアのベーシック』(森百合子著)など。おうちで通える料理教室『Tabe/Tqu(タベツク)』の運営スタッフでもある。instagram:@chocozai

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