読み物

vol.12 鞄の中の白うさぎ

玄関を出て見上げれば、先ゆき読めないくもり空。

ぬるい空気はそこはかとなく。天気予報はチェックし損ねてしまった。

思わず、鞄からスマホを取り出そうとするも、
「あァ、ちゃんと鞄に入っていたね」
目が合ったのは、先週買ったばかりの折りたたみ傘。
ハンドル……手元が木彫りの白うさぎで、鞄の中でじっと、自分の出番を待ち受けているかのよう。雨傘として使えて、日傘にもなって、今日のような日にはもってこい。

白のスニーカーで、歩道のアスファルトを淡々と歩いていた。
手の甲に水滴が乗る。そんな感触をひろった。
見ると、手の甲に雫。
「きた」
水滴は雨のきざし。それをひそかに知らせてくれたのかも。
おかげで、おもむろに傘を差せそう。
鞄の中の白うさぎと、もう一度目が合った。

作家プロフィール
ななくさつゆり/小説家・ライター
眺めるように読める詩や小説、読む人のこころにふれる、情景が浮かぶようなストーリーを作る。

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