1945年創業。東京の下町・馬喰町で70年続く卸問屋であり、現在は荒物を扱う雑貨店として知られる『暮らしの道具 松野屋』。店主・松野弘さん、きぬ子さんの暮らしぶりから、便利に美しく使われてきた昔ながらの生活道具の魅力を倣っていきます。第3回のテーマは、『小掃除道具』。お手製雑巾のつくり方も、教わってきました。
その3. 夏の小掃除道具
暮らしを整える、夏の小掃除
2019年7月12日(金)
すきま時間で、こまめにこつこつ
松野家では家の外にも中にも、いろいろなフックに、ほうきやちりとりなどの掃除道具が掛けられています。ちょっと時間ができたら、さっさ。思い立ったらすっすと、すぐに小掃除をはじめられる暮らし方が、自然と備わっています。
掃除が苦手という人にこそ、試してほしい
「もう、さすがに掃除しよう」と、しぶしぶ気合いを入れてはじめれば、意外とたのしいし綺麗になればうれしい掃除しごと。及び腰になるのは掃除そのものより、掃除機を引っ張り出したりしまったり、終わったあとの片付けが億劫で……という方が少なくないようです。そんな掃除にまつわる面倒なあれこれ。ほうきを使って一掃してみませんか?
やる気になったときに、時間を選ばずすぐ使える
また夜遅い時間に限って、「いまなら掃除したい気分なのにな」と思ってしまう、ちょっぴりあまのじゃくな方にも、ほうきはぴったり。音に気を遣うマンションなど、現代の暮らしにこそ実は便利に使える道具です。よしやるぞ!と思ったときが、掃除どき。軽くてスリムでぴんと美しい佇まいのほうきは、掛けたり立てかけたり、インテリアとしても素敵にお部屋を彩りますから、すぐ小掃除に取り掛かかれる軽やかさも魅力です。
一本一本、丁寧な手しごとでつくられたほうきは、あたりがやわらかで、小さなチリを逃しません。きちりと編まれた“ほうきもろこし”は抜け落ちしにくく、草が持つ油分で畳がつややかに。東京型という名前は、かつて東京向けの出荷が主だった頃の名残で、相撲の土俵にも使われているといいます。同じく東京が名前についたちりとりを相棒にすれば、掃きしごとがよりはかどります。
掃くだけでつやつや。棕櫚のほうき
愛すべき価値ある道具のひとつとして、棕櫚(シュロ)のほうきもはずせません。長くつくられ使われ続ける歴史のなかで研鑽されてきた機能美にあふれています。吊るした様子、掃いている姿も風景として絵になり、大切にしていきたいと思わせる魅力があります。掃きごこちは適度な弾力と密度のあるコシにより、ホコリが舞いにくく細かなチリを集めやすい特長をもちます。棕櫚も繊維がもつ油で、掃くほどに床を自然とつややかに仕上げてくれます。
細くしなりのある素材は、カーペットに絡まった毛や細かなチリを、しなやかに掻き出す力も。耐久性にも優れ、棕櫚そのものが劣化してしまうことはないそうですが、使用頻度が高くすり減ってきた場合は、外用にしても。江戸時代以前から「一生に3本あれば足りる」といわれ、1本で20年以上は使える逸品です。使いはじめは多少の棕櫚粉が出ますので、新品のうちは使う前に外などで穂先を払って粉を落としてから使ってください。
素朴でシンプルなトタンでつくられた昔ながらのちりとり。屋根にも使われるトタンはサビに強く、軽量で扱いやすい素材です。こちらも置いておくだけで絵になる佇まいです。
ほうき生活の手はじめにおすすめ
本格的なほうきを買う前に、そのよさをちょっと体験できる孫ほうき。机や食卓で、消しゴムのカスやパンのくずを手早く掃いたり、玄関先やお手洗い、台所など入り組んだ部分の小掃除に力を発揮します。松野家では、珈琲豆を挽いたあとの小掃除に。
飾り気のない潔さにみる荒物の実力
丈夫なシダのほうきは、庭や玄関の小掃除におすすめです。一掃きでまたたく間に落ち葉やごみが集合するので、掃くことがたのしみに。使い勝手のよさに加え、削ぎ落とされたシンプルなつくりは長年に渡り愛用する人を増やし続けて、柄を伸ばしたロングバージョンも誕生しました。お部屋用の和ぼうきや棕櫚ぼうきも含めて、自然素材のほうきは、使い込むほどに手に馴染み、よい風合いへ育っていきます。
ちりとりは、大阪の町工場で職人がつくる、フタ付きのトタン
製。便利なスタンドタイプです。
持ち運べる折りたたみ式。旅先のお洗濯にも
さびにくく丈夫なステンレスを使用した折りたたみ式ハンガーはコンパクトにできるので、長めの旅に持っていくのもおすすめです。フック部分に付いたストッパーは、風が強い日などの落下防止に役立ちます。小さいサイズは18個のピンチ付き。35個のピンチが付いた大きいサイズも好評です。
暮らしの道具をこしらえてみる
最後に、きぬ子さんから教わった、お手製の雑巾についてご紹介します。きぬ子さんも以前は折りたたんだタオルを雑巾や台拭きにしていたそうですが、お義母さまから習った雑巾の勝手がとてもよく、自分でつくり使うのはもちろん、イベントなどでワークショップをおこない、そのよさを広めています。
タオルは粗品や、温泉・旅館で用意されているような大きさと薄さのものがおすすめ。タオルを半分に切って、補強のため間にはさむ手ぬぐいも同じ大きさにカット。
「着古した浴衣なんかでもいいですよ。バケツに引っ掛けている右側の雑巾は、木綿の浴衣でつくりました。(きぬ子さん)」
「着古した浴衣なんかでもいいですよ。バケツに引っ掛けている右側の雑巾は、木綿の浴衣でつくりました。(きぬ子さん)」
マチ針を2箇所くらい打ったら、あとはひとすら運針。縫い目は細かいと雑巾が固くなってしまい絞りにくいので、ざくざく縫ってよし。
「荒いかな、くらいで大丈夫。糸も切れやすくなってしまうので。ちょっと不揃いなくらいは気にせず、玉止め玉結びもしなくていいです。最初と最後にそれぞれ一針、返し縫いをしておしまい。」
「荒いかな、くらいで大丈夫。糸も切れやすくなってしまうので。ちょっと不揃いなくらいは気にせず、玉止め玉結びもしなくていいです。最初と最後にそれぞれ一針、返し縫いをしておしまい。」
つくりたては台拭きに使って、どんどん下に、最後は外へ。松野家の無垢の木でつくられた70年ものの縁側も、日々お手製雑巾できゅっきゅと手入れされています。
使い捨てシートでは味わえない、水拭きしたあとのさわやかな達成感。フローリングでもきちんと固く絞った雑巾で手早く済ませれば、水拭きしても問題ありません。夏の小掃除、できることからこつこつ、古くから愛される道具の力を頼りに、はじめてみませんか?