その10. [ ものづくり篇 ]スレッドラインができるまで
道具としての美しき鞄
2020年9月22日(火)
1945年創業。東京の下町・馬喰町で70年続く卸問屋であり、現在は荒物を扱う雑貨店として知られる『暮らしの道具 松野屋』。店主・松野弘さん、きぬ子さんの暮らしぶりから、便利に美しく使われてきた昔ながらの生活道具の魅力を倣っていきます。第10回はものづくり篇、『松野屋』の工房へ――。
今回は馬喰町の松野屋にやってきました
前回、第9回でお伺いした、東京谷中の夕焼けだんだん上にある『谷中 松野屋』は、一般のお客さまにお買い物していただける小売店。今回は、卸売専門の店舗スペースと事務所兼工房を構える馬喰町の『松野屋』におじゃましました。
松野屋のヘビーデューティーを体現するアイテムといえる、オリジナル帆布鞄の人気シリーズ「THREAD LINE(スレッドライン)」。20代の頃、京都の老舗帆布鞄メーカー「一澤帆布店」にて鞄づくりの修行に励んだ弘さんがデザインする、ものづくりの現場をちょっぴり覗き見していきます。新作トートができあがるまでの工程もつぶさにご紹介します。
ご夫妻で愛用の11号帆布デイパック
きぬ子さんから、毎日使いにもっと軽やかさのある鞄にしてほしいとのリクエストを受け、帆布では薄手の11合帆布で弘さんがデザインしたデイパック。
きぬ子さんの毎日の必需品。長財布や手帖、ポーチなど革小物が多く、書類の束や水筒なども集まるとずっしり重さがあるものの、「トートだと肩が凝ってしまうけど、リュックだからぜんぜんラクチン。お買い物してエコバッグを肩掛けするから、よりリュックがいいですね(きぬ子さん)」
使いこなしていった人だけに得られるこのクッタリ感がまたたまらない味わい。アタリの出る風合いも帆布ならでは。
アメリカのクラシックデイパックのフェルトを使ったショルダーハーネスを再現。このクッション性で重い荷物がさらに軽く感じられます。フェルトは通気性に優れているので一年中OK。
アウトドアグッズによく見られる三角力布も採用。丈夫に永く使える工夫がそこかしこに。
中の大きな仕切りポケットには、ノートパソコンや手帖など入れても、背負った時の安定感が増します。
「わたしはビニールシートを畳んで入れています。よい景色に出合ったら、いつでもピクニックのようにできるから(笑)」とお茶目なきぬ子さん。
弘さんはブラック、きぬ子さんはパープルを愛用。染めの雰囲気が素敵な色や模様のお洋服を着ていらっしゃることの多いきぬ子さんのよそおいにも、しっくりなじむ使いやすい色味のパープル、おすすめです。
しーーっと、なにやら内緒ばなし。いつもなかよしなおふたりの、ほほえましい姿をぱちり。
トートは自立する硬さと厚さの6号帆布を使用
純綿100%の、厚くて丈夫なトートバッグ。岡山県で織られている6号帆布を東京の鞄職人がしっかりと縫い上げた、とてもシンプルなアイテムです。口元を留める『挟みナスカン』や補強のための『ネジ鋲』など細かなパーツにもこだわって作りました。水洗いもOKなので、ごしごし洗って、長く愛用できる逸品です。すっきりとしていてリンネルも入る嬉しいサイズ感は、ちょっとしたお出かけからデイリーまで、幅広く使えます。
斜めがけしたままでも出し入れしやすい
6号帆布2ポケットツールショルダー M/13,200円(3色)
岡山で織られた、少し厚手のコットン帆布素材を使用したショルダーバッグです。両サイドにはアジャスター付きで、身長やコーディネートに合わせて長さが調節できます。
外側の深めのポケットは、スマートフォンやパスケースなどの使用頻度の高い小物の収納に便利。口元はナスカン付きのしっかりとした作りで、荷物が飛び出してしまうのを防いでくれます。
ずっと変わらず好きなものが、自然とカタチに
古いもの好き、登山も大好きな弘さん。アメリカのアウトドアブランド「SIERRA DESIGNS」のオレンジ色の帆布ケースは40年前のものでもピンピン。
弘さんが手にしているリュックサックは、ヨーロッパメーカー「salewa」のザックを見よう見まねで30年以上前につくったお手製の年代物。いまも山へ出かけるときに、きぬ子さんが使うこともあるそう。本革はさすがにヒビ割れが目立つものの、帆布はほつれも破けもなし。
きれいな色のゆたかさもスレッドラインの魅力
軽くて、たっぷりと荷物が入るラフなショルダーバッグです。コンパクトに折りたためるので、持ち運び便利。旅行などのサブバッグとして持つのもおすすめです。発色のよさも魅力で、スタイリングの挿し色使いにもぴったり。
いよいよ、新作トートができまるまでに潜入!
この秋発売の最新作、キャンバスボトルトート。A4サイズのファイルがらくらく収納できるサイズです。取り外しできるショルダーストラップ付き。
弘さんのデザインやアイディアをカタチにしていく、サンプル職人の平野さん。
弘さんのデザイン画と設計図を元に、手早く型紙をつくり、裁断していきます。まさに二人三脚。
なるべく端切れを出さない寸法から、頭に描くデザインをカタチにしていくのが弘さんの流儀。ポケットなどのパーツもすべてパズルのように一枚の帆布のなかに組み込まれています。
型紙や作業台、よーくみると
ぺらり、とめくった型紙をふとみると、昔のカレンダーのリサイクル。硬さやしなやかさが型紙にちょうどぴったりなんだとか。
裁断の作業がひと通り終わって、片付いた台を離れたところから眺めていたら……! 「卓球台です(笑)。これもなんだか、使い勝手がいいんですよね(平野さん)」
ここからどんどん縫っていく作業に
帆布らしい質感をもつコシと重厚感が特徴の8号や6号帆布を選んで使うことの多いスレッドラインの鞄。がしがし縫える工業ミシンはなくてはならない存在。
まずは持ち手をぐるりと輪っか状につなげていきます。バラバラに本体に縫い付けていくよりも、負荷が均等に分散されて、丈夫なつくりに。
両端から折り込まれた、珍しい持ち手のデザインは、アメリカ軍のトートのパーツから拝借。弘さんが学生時代の70年代、アメ横にあった軍物のサープラスグッズやヘビーデューティーの知識が惜しみなく注ぎ込まれています。
作業道具も絵になる美しさ
弘さん愛用の道具たち。京都での修行時代から使っているものも。
この連載にも何度も登場したシュロのほうきは、松野屋の工房でも大活躍。松野家と同じく、大小さまざまなほうきがそこかしこに掛けられて、作業が終わるごとにいつでも整えられる環境に。
ポケットなどのパーツが合体
平面ながらトートバッグのカタチがみえる状態まできました。
金具やネームタグもついてどんどん鞄の姿に
「ナスカンは船で使う金具みたいだったけど、蔵前でみつけてよさそうだから使っちゃった(弘さん)」
持ち手やポケットなどのパーツを包み込むように、袋状に縫い合わせていきます。不思議な光景。
いちばん苦労する、おしまいの仕事
「口の部分を縫う最後の作業がいちばん苦労します。もうほぼ鞄のカタチになっているのでミシンの掛け方に制限がでてくるのと、縫われて生地が重なり厚みが出ている部分が多いので、硬いですからね(平野さん)」
口と一緒に縫い付けるネームタグも、弘さんのデザイン。THREADは縫い糸、LINEは線。
縫製されていく途中のディテールを見ていて、帆布らしいザラリとした質感とステッチの美しさにあらためて魅了されました。弘さんの帆布愛が、ブランド名やロゴデザインからもストレートに伝わってきます。