中村裕美子さん
日本サービスマナー協会 認定マナー講師
自身の子育て経験を活かし、日常のあらゆるシーンのマナーを教えています。相手を大切にし、自分自身も大切にする方法の一つとしてマナーを学ぶことをお勧めしたいと思います。
春夏ならではのマナー
今の季節は熱中症予防のためにも暑さ対策は必須です。扇子や帽子などの小物を用いる方も多いかと思いますが、周囲へはどのような配慮が必要でしょうか。
この時期に気になる汗や香りの問題も合わせて、マナーのポイントを確認していきましょう。
扇子
扇子は日本発祥の日用品です。平安時代に日本で作られたのが始まりで、中国やヨーロッパに伝えられました。大変長い歴史があるのですが、最近は様々な素材・デザインのものが売られており、納涼のための身近な小物と言えます。
以前は自分だけでなくお隣にも風を送るようにあおぐことが良いという考え方があったようですが、昨今は知らない人があおぐ扇子の風を不快に感じる方が多いようです。混みあった電車の中など人が密集する場所で使用する場合は周囲への配慮が必要です。また顔の位置であおぐと他の人の目に当たってしまいそうで大変危険ですね。
扇子は要(扇骨を止めている金具)から中骨(内側の細い扇骨)を包むように持ち、胸の高さから顎に向かってゆったり優しくあおぎましょう。扇子も長持ちしますし周囲の方に風が当たりにくくなります。見た目にも粋ですよ。
また、かしこまった場で扇子を使うときにも注意しましょう。扇子をあおぎながら目上の方に話しかけるのはあまり良い印象とは言えません。目上の方に話しかけたり、挨拶したりする時に、他の動作と同時に行うのは失礼ですね。扇子も例外ではないでしょう。
使わない時はポーチに収納
ハンカチ
季節を問わず持ち歩くものですが、春夏は出番が多めです。汗拭き用と分けるために2枚以上持ち歩いている方も少なくないようです。ハンカチにはタオル生地、綿生地、シルク生地などの種類があります。TPOによって使い分けましょう。
タオル生地のハンカチはアイロンがけの必要がなく、普段使いとしては大変重宝しますが、かしこまった場ではカジュアルすぎると思われることもあるようです。綿生地のアイロンがかかったハンカチがあると安心です。汗を拭く時は広げず畳んだまま使用します。
また、ハンカチをテーブルの上に置くのは控えましょう。汗などを拭くハンカチを飲食物と同じ場所に置くのは衛生的ではありませんね。机の上に出しっぱなしにするのも同様です。使用後は必ずバッグに仕舞いましょう。
帽子
帽子は熱中症予防の必須アイテムですが、マナーで迷うことが多いようですね。
帽子のマナーは西洋の文化が日本に輸入され少しずつ変化して現在に至っています。もともと西洋では女性の帽子はアクセサリーの一部とみなされ、室内での着用も問題ありませんでした。
一方、男性の帽子はその当時から室内では脱ぐのがマナーとされていました。その後、かつて男性物だったパナマ帽子やキャップを女性もかぶるようになり、その際には男性のマナーが適用されるようになりました。今でも女性用のフォーマルな帽子は室内の式典で着用されています。
しかし暑さ対策の帽子はユニセックスなものがほとんどですので、女性でも室内では脱ぐのがマナーと考えられるでしょう。最近、キャップなどでもファッション性が高いものは男女を問わず室内で着用されている姿を見かけるようになりました。マナーは時代と共に変化していくものですので、帽子を脱ぐべきか否かという議論がまた起こっているようです。
したがって、室内であればどこでも脱ぐべきとは言い難い昨今ではありますが、きちんとした服装が求められる場所や一緒にいる方に敬意を払うべき場所、周囲の邪魔になる場合は脱いだ方がいいでしょう。
例えば、格式の高いレストランや目上の方とお会いする時など。また神社も正式参拝は正装が基本です。一般的な参拝の時でも鳥居をくぐる前に帽子を脱ぐのが作法と言われています。
周囲の邪魔になる例は劇場などが挙げられます。広いつばで周囲の方の視界を妨げてしまう場合は脱ぐ必要があるでしょう。
ただし、健康上の理由で帽子を着用されている方に脱ぐのを強要するのは配慮に欠けます。マナーは絶対のルールではありません。
サンダル
涼しい装いに欠かせないサンダル。素足で履くと気持ちがいいですね。
注意していただきたいのが「素足+つま先が出るサンダル」はカジュアルな装いであることです。正装で行くべき場所では控えましょう。
普段履きとして活用したいサンダルですが、お友達のお家にお呼ばれする時に素足のままお邪魔するのはいかがでしょうか。サンダルで外を歩くと少なからず足が汚れます。その足でお家に上がるのは思いやりのある行動とは言えません。レストランの座敷でも同様です。
素足でサンダルを履く時は靴下を持参しましょう。
香り
春夏は寒い時期より香りが重く感じられる事があります。身だしなみと思っていた香りが実は周囲に迷惑になってしまうことも。特に気を付けたいのが汗をかいた後の香水です。香水は匂い消しではないので、体臭を消すためにたくさんつけるのは逆効果です。まずは汗を洗い流してから軽く香水をつけるようにしましょう。
※1 つける場所も鼻の位置から離れたウエストやひじの裏にすると香りすぎを防げます。
※2 この季節はハンカチに香水やアロマオイルを一滴つけて、ほのかに漂う香りを楽しむのも素敵です。
ただし、どんなに軽く控えめの香りであっても食事の席や病院などでは控えたほうがよいでしょう。せっかくの食事の香りを台無しにしたり、体調の悪い方の気分を害したりするのは避けたいですね。
香水以外にも柔軟剤などで香りが強いものがあります。いずれも強すぎる香りには注意しましょう。