「誰にも読めないような謎のノートがあるんです(笑)。日照時間や湿度、気温など、天候によって配合を調整しないと同じ色味は出せないので、すごい技術と経験だと思います。また、配合してから24時間以内に染色して干さないと色が違ってきてしまうため、予想していたお天気がハズレるとロスが出ることも少なくありません。インド製はB品(品質が劣る商品)が多いと言われていますが、工程を知ればただのB品ではないと納得してもらえると思います。出合いは柄がかわいいと気に入ってくださるお客さまでも、木版プリントでのものづくりやインドの文化に少しずつ興味をもたれて、理解してご購入いただけているので。でもどうしてもお洋服には使えないと判断した生地は、ミニトートにしてショッパーやノベルティとして活用しています。」
――インドには1年に何回くらい行っていますか?
「4、5回くらいですね。時間があればとにかく行きたいと思っています。とても暑い6月や雨季と、大きなお祭りがある時期は仕事にならないので避けます。」
――大きなお祭り、ですか?
「インドは神様と切っても切り離せない文化を持つ国で、信仰する神様をお祭りすることはとても重要な行事なんです。公的な機関もお休みになるくらいなので、外にまったく人がいなくなってしまうほど。最初の頃はそんな事情も知らずに押しかけていったので、勝手に苦労していました(笑)。
日本で作業していると、納期が。。とか、こちらの都合で気持ちばかり焦ってしまうので、そんなときは特にインドが恋しくなります。
木版の仕事にたずさわっている地域は、ヒンドゥーを信仰している人が多いのですが、宗教の特徴のせいか町並みや居住が清貧で、昔の日本にタイムスリップしたような気分になるんです。それもインドへ行きたくなる理由のひとつかもしれません。」
――しかし、いきなりインドへ行くなんて、すごい決断でしたね。
「実は、なるべく飛行機に乗らない人生を送りたいと思っていたくらいなので、自分でも不思議な感じです。ただ服づくりをしていく上で、どうせなら本物を、布のルーツをもつインドへ、という思いはありました。見渡す限りの綿花畑は、圧巻の風景ですよ。」
(写真一番下)たんぽぽの生地をはじめ、カプワでは手紡ぎ手織りのカディコットンも多く使われています。正真正銘の手紡ぎなため、糸の太さが特徴的な布です。着たり洗うことを繰り返しながら太い糸が摩耗していき、柔らかく肌ざわりのよい風合いに。通気性にも優れています。
「カディは使っていくほど風合いの違いが分かってくる布です。価格は高くなってしまいますが、綿が好きで、カプワの雰囲気も気に入った、という方にはぜひ、使用感をたのしんでほしいです。
インドはいろんな生地が豊富にありますし、高級な綿素材にも手が届くのは本場ならではの強みです。現地の人は本当にいいものを知っているので、柄と合う生地をとことん一緒に探して、みなさんにご紹介していきたいと思っています。」