ヨーロッパも注目する、平成の荒物屋『松野屋』
「荒物」という言葉自体を近頃はあまり耳にしなくなりましたが、ほうきやざるやはたきなど、簡単なつくりの日用品ともいえる“働く道具”が、荒物です。荒物のある暮らしは、すこし前の日本では当たり前にみられた日常の風景でした。時代の変化とともに衰退しつつあった荒物雑貨が、再び注目を集めています。
松野さん 日本のものづくりのレベルの高さと信頼性が、国内だけでなく海外でも評価されるなか、丈夫で買いやすい昔ながらの荒物への関心も高まっているようです。パリ、ロンドン、スペイン、北欧、台湾、アメリカなどのセレクトショップからの注文も増えています。
民藝ブームも海外からの逆輸入のようなかたちで沸き起こっていますよね。民藝も人の手が生み出す日用品という意味では荒物と通じるところがありますが、荒物の価値は稀少性や計算された美しさ、おもしろさにあるのではなく、あくまで実用性にあります。素朴な美しさは求めた結果ではなく、図らずしてにじみでた副次的なもの。
あるがままの美しさを備えたいわゆる「用の美」をもつ荒物を、松野屋では「民衆的手工藝品」ではなく、より普通で多くの人々の日常に根ざした「民衆的手工業」から生まれる日用の道具と表現しています。長い年月をかけて培われてきた手工業製品には、買いやすい値段で、よい仕事をするものがたくさんあります。日常に使いやすく今の暮らしにちょうどよい道具たちとの出合いが、日々の生活を豊かに彩ってくれることを願っています。
(写真上から2枚目)松野屋が紹介された新聞記事を目にした読者より届いた手紙。絵手紙の教室を開いている方だそうで、全長3m近くはある巻物のよう。
(写真上から3枚目)松野屋店主3代目の松野さん。戦後すぐに先々代がはじめた店で扱っていた築地市場や蕎麦屋で使う集金鞄、銀行員の鞄、学生鞄などに幼い頃から影響を受けたそう。大きくなるにつれ民藝に興味を持ち、一方でアメ横にあった軍物のサープラスグッズに惹かれ、70年代にはアウトドア、ヘビーデューティー、Foxfireブックなど、アメリカものにも傾倒。つくり手になりたかったという思いもあり、20代前半は帆布の鞄の仕事をおぼえるために京都で4年ほど修行した経験ももつ。
「振り返ると、これまで興味をもってきたものの積み重ねが、いまの松野屋と荒物雑貨にいきついたのでは、とあらためて思います。無骨で頑丈、使うほどなじんで愛着が増し経年変化がたのしめる、ジーンズやキャンバストート、ワークブーツなどと共通している気がします。」