根強いファンを惹きつけて離さないシューズブランド「Pionero(ピオネロ)」。人とつながっていく靴と、そのものづくりにこめられた思いを、パイオニア代表の西村博さん、企画の仲村奈笑さんにうかがいました。
【 目 次 】
・人の手、足、時間がつくっていく、世界にひとつだけの靴
・つくる過程で発生する必然を、デザインのエッセンスに
・一足ずつ異なる個性に、彩りをつける
・ピオネロの足入れを支える分身
・常にその時代に合わせ、革新していくこと
人の手、足、時間がつくっていく、世界にひとつだけの靴
新品では出せないオーラをまとっていく靴。育てるたのしみを、お客さまと共有していきたい
つくる現場で修理もおこなう。全国から集まった靴たちが、北千住にある工場の一角で順番待ち。お客さまひとりひとりの履きグセまでも把握して、より長く履いてもらえる直し方を考えるピオネロ。「そこまでやるのが昔ながらの靴屋の仕事」という西村さん。
――いきなり修理のお話からはじめてしまいますが、どの靴も大切に履きこまれているのがわかりますね。
西村さん「そうなんです。ピオネロのお客さまは本当にいい靴の履き方をされている方が多くて、それぞれの成長がみられるのもたのしみなんです。修理は木型を入れて作業しますから、履き続けて縮こまった革や靴全体の背筋がまた、ピンと伸びるような感じになるんです。そのあと仕上げにクリームなどで磨いてあげると、新品の靴では絶対に出せないオーラをまとって、それはもうすごい存在感ですよ。革靴ならではの、履いてきた時間がもたらす芸術だと思っています。」
仲村さん 「また修理と一緒に、こんなカスタムはできますか?というご相談を受けることもあります。たとえば、飾りをなくしてシンプルにしたいというリクエストとか。同じようなご要望が何件か重なると、いま実際に求められているテイストはそっちなんだと、商品開発に活かしていくことも少なくありません。履きごこちや強度についていただくご感想は特に、柔軟に対応できるよう努めています。」
つくる過程で発生する必然を、デザインのエッセンスに
――ピオネロといえば、甲にシワがあるレースアップシューズが代表的な一足ですね。
西村さん 「アッパーを張り込む過程で、指で押さえるときに出来るシワをそのまま活かしています。通常はそのシワをきれいに伸ばす作業が発生しますが、そのままみせてもおもしろいなと思って。
パイオニアはもともと紳士靴専門の工場でしたので、靴づくりの基本とされるメンズの技術をベースにして、シンプルな遊び心をのぞかせたレディースシューズに仕上げたのがピオネロです。紳士と婦人では靴のつくり方や考え方がまったく異なるのですが、このシワは紳士靴をつくっていたからこそ出てきたアイディアだと思います。」
製甲の際、自然とできるシワを伸ばさずそのまま活かしてワンポイントに。靴づくりの基本を熟知するメーカーだからこそできた、ありそうでなかったデザイン。履いていくと出てくる履きジワとなじんでいく様子もたのしみに。
ニュートラルな定番色から、挿し色になる鮮やかなカラーまで。紳士靴の趣きと、婦人靴ならではの自由な色の組み合わせもピオネロの魅力。
一足ずつ異なる個性に、彩りをつける
――ベースは紳士靴ながら、自由で軽やかな雰囲気を感じるのは、色の印象も大きい気がします。
仲村さん 「一足ずつ刷毛や筆を使って、絵に色を塗るようにして色付けしていきます。シワの入り方などちょっとした表情の違いですが、それぞれの個性にあうようにという思いが自然と筆づかいに出てくるような気がしています。
もともとの刷毛目と、履いていくうちに部分部分、色の濃淡があらわれてくる変化も楽しんでいただきたいです。
油性染料なので劇的に色落ちすることはありませんが、薄くなったのを濃くしたり、同系色でしたら多少、ご希望の色に近づけて塗り重ねることはできますので、ご相談いただけたらと思います。」
色によっては下塗りをしたり、異なる色を塗り重ねてより奥行きのある色出しをおこなう。
――使っている革についておしえてください。
西村さん 「ピオネロナチュラルというエコに重心を置いたラインで使用している革は、土に埋めても害がない、植物の渋でなめしたヌメ革だったり、コンセプトにあう革、素材が活きる組み合わせを考えて選んでいます。
実は本当のヌメ革というのは、業界の仕組みなども影響して残念ながらなかなか流通していないのが現状です。ピオネロナチュラルでは、もともとクリーニング屋を営んでいた80歳のおじいさんが、20年かけて開発し特許を得て、いまもたったひとりでコツコツつくっているヌメ革を、直接買い取って使っています。本来の材料と手法を守ってできたヌメ革の靴は、冬はあたたかく夏は通気性がいいためムレません。」
ヌメ革を使用した、ピオネロナチュラル。本物を多くの人に知ってほしいと、素材の継承にも力を注いでいる。
ピオネロの足入れを支える分身
いい靴をつくるためのコツは、信じて任せる
――履きごこちで配慮されている点についてお聞かせください。
西村さん 「実はないんです(笑)。問屋さんに木型を褒められることが多くて、どうやってつくっているの?とよく聞かれるのですが、うちはなんにもしていないんです。全部モデリスト(木型をつくる職人)にお任せして、こちらから注文をつけることはほとんどありません。ずっと何年もお願いしているから、ピオネロの足入れを一番わかっているのはモデリストなんですよね。いい靴をつくるためにプロに最大限の力を出してもらおうとしたら、信じて任せるのが一番の仕事だと思っています。」
ピオネロの足入れは、木型づくりの職人・モデリストにすべて一任。「こだわりがないのがこだわりです(笑)。やりとりが少ないときほど、いい靴が仕上がる。意識しなくてすむのは、それだけいい木型をつくってもらっているという証拠です(西村さん)」
常にその時代に合わせ、革新していくこと
成長しつづける先駆者・職人たちの存在
西村さん 「1963年にパイオニアという屋号で創業して、52年が経ちました。ブランド名のピオネロは、社名をスペイン語にしたもので、同じく開拓者、先駆者という意味をもちます。
うちで働いてくれているスタッフたちは、学校を出たばかりの20代から、靴づくり一筋にウン十年と続けてきた熟練の職人までさまざまです。60代から入って、恐ろしいほど伸びていく人もいます。死ぬまで成長していく、昔ながらの職人とはこういうものかと。いろいろ重ねてきた経験が、あらたな発想へつながっていく、まさに先駆者ですよね。会社にも自分にも、若い子たちにも、与える影響は計り知れないと日々、脅威を感じています(笑)」
今年80歳を迎えるという職人の松尾さん。「仕事が一番の趣味です。元気になるし、頭も使うし、会社に来て仕事をさせてもらうのが本当にたのしい(松尾さん)」
企画の仲村さん。「松尾さんをはじめ、内容もスケジュール的にも無茶だよなぁ……というお願いをしても、自分がさらに成長できるし経験になると、いつもこころよく引き受けてくれるんです。そんな背中をみて、ものづくりができることを幸せに思っています(仲村さん)」
(おまけ)体験させてもらいました
――社長の西村さんより直々におすすめいただき、色付けの作業を体験させてもらいました。しかも本番の商品に……。
西村さん 「入りたてのスタッフでも練習ナシ、商品でやらせますから。しかも教えない!みて学ぶのが一番!ほかの工場で働いていてうちにきたベテランの職人も同じです。特にピオネロの靴は、こだわりが多すぎて、手間で仕方ないから、普通の職人はやりたがらないですが、うちの職人たちは靴をみて、経験を引き出して、つくっちゃうんです。だからパイオニアとしても、うちのやり方はこうだという押し付けもしません。
これぞ日本人にしかできない、こういうことがメイド・イン・ジャパンなんじゃないかと、個人的には思っているんですけどね。」
みて、学び、考え、ととのえて、かたちにしていく。一瞬の体験でしたが、ものづくりをする人の苦労と喜びを、自分の体を通して想像できた気がします。
木の柱に余り革などを釘でとめて、使いやすいように道具を収納。トランプを描いた靴のアッパーも、ポケットのようにして。
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