
writer NATULAGI編集部
使うたびに革がなじみ風合い豊かになっていく、天然素材ならではの経年変化。魅力的に思う反面、汚れている感じがしないかな、と不安になったことはありませんか?
丈夫で長く使える革製品だからこそ、エイジングをもっと気持ちよく楽しめたら。そんなふうに思っていたところ耳にしたのは、「洗える革」のバッグがあるということ。
訪れたのは、東京・住吉に築50年の古民家を改装したアトリエをかまえる『TOKYO LEATHER FACTORY(トウキョウレザーファクトリー)』です。
代表の加藤雅信(かとうまさのぶ)さんに、洗える革のバッグ誕生の裏側、ブランドの「これまで」と「これから」をお聞きしました。
「服は洗う、バッグは洗わない?」

原点は、日本有数の皮革産地である東京・墨田で、祖父の代から続いた創業1948年のタンナー(動物の皮を製品に使える「革」へと加工する製革業)。
東京の皮革産業とものづくりをより広く発信したいという想いから、祖父、父と続いた家業を雅信さんが引き継ぐ形で、2018年に「TOKYO LEATHER FACTORY」を立ち上げました。
▲代表の加藤雅信さん。革職人としてのキャリアは独立前からあわせて21年。長年革と向き合い続けています。「革とひとくちに言っても、種類やなめし方、加工や染色によって、その表情はさまざまです」と加藤さん。
タンナー時代から、アパレル、バッグ、靴、小物などたくさんのメーカーに向け、多様なニーズに応える革の開発・販売を行ってきました。
▲見せていただいた革のサンプル。シワ加工の凹凸があるもの、フィルムと箔を貼りクラッキングのような柄があるもの、どれも同じ豚革だというから驚きです。加藤さん:
「洗える革も、もともとはアパレル向けに開発した素材です。洋服は洗濯できることが求められる一方、バッグや靴はクリームで手入れをしながら使うことが一般的ですよね。
でも、洗濯はみなさんの毎日の暮らしの中にある身近な習慣。バッグだって洗えるほうがうれしいのでは? と思ったんです。
洗える革でバッグをつくったら、もっと気軽に革を楽しめる『新しい暮らし』を提案できるのではないか、そう考えたことが開発のきっかけです」

ネームやポケットなど、洋服のパーツ用に開発した水洗いできる革。それを使ってバッグをつくることは、簡単ではありませんでした。
加藤さん:
「バッグは衣類とは違って、洗濯を前提とした評価基準がほとんどないんです。そのため自分たちの手で、何度も繰り返し試験と改良を重ねました」
金具や芯材、縫製方法など細部まで見直し、革の風合いや軽さを損なうことなく、安心して洗って使えるバッグへ。
構想から約2年。ついに洗える革のバッグが完成しました。
いざ洗うときのポイントは
▲洗える革のウォッシャブルレザーシリーズには、豚革のスエード素材を採用。そもそも革は水に弱く、濡らしてはいけないものというのが世間一般の認識。急な雨にヒヤッとしたり、水をこぼして焦ってしまったり、そんな経験がある方も多いはず。
洗えると聞いていても、いざ洗うとなるとドキドキしてしまいそうです。
加藤さん:
「みなさん最初に水に漬けるときが、一番緊張したとおっしゃいます。でも大丈夫です。
手洗いが推奨ですが、テストではネットに入れて洗濯機でも洗っているんですよ。脱水しすぎるとねじれてシワがついてしまうので、脱水時間にさえ気をつければ問題なく洗えています」
洗濯機でも!そこまで聞くと安心です。
▲公式YouTubeでは洗い方を詳しく解説しています。
ほかに気をつけるポイントはありますか?
加藤さん:
「直射日光に当たると日焼けしてしまうため、風通しの良い日陰で乾かしてください。一度焼けて変色した部分は元に戻らないので、そこだけは要注意です。
乾かした後はブラッシングをすると、手触りがふんわりして、きれいな風合いに仕上がります。最初は流れに逆らうようにして空気を入れて、最後に毛の流れに沿って整えます」
▲高価なブラシでなくても、ホームセンターなどで売っている数百円のブラシで問題ないそう。加藤さん:
「洗った直後は少し硬く感じられることもありますが、使ううちに再び革がなじみ、やわらかさが戻ってきますよ」
▲担当バイヤーは、洗える革のバッグのリアルユーザー。「数回洗っていますが、手触りは良いまま、型崩れもしていません」(バイヤーM)洗えることは、経年変化をたのしむ選択肢
汚れが気になったとき、洗えるというのは心強いこと。ただし、必ずしも洗うことをおすすめしているわけではないのだといいます。
加藤さん:
「洗わずに、ブラッシングやスエード用のケア用品で手入れをするのももちろんOKです。色の経年変化が穏やかになり、買ったときの印象を保ちながら長く使えます。
洗うことで褪せていく色の変化も、洗わない発色の美しさも、お好みに合わせて選んでいただけます」
洗うことは、経年変化をたのしむための選択肢のひとつ。「自分の理想とする状態で、長く使い続けてほしいんです」と、加藤さんは話します。
経年変化は、愛着を増すような変化であってほしいから。トウキョウレザーファクトリーのバッグは、デザインの工夫も随所にちりばめられています。
▲右が20回以上洗ったバッグ。洗濯を繰り返すほど、デニムのように色が淡く変化していきます。(写真提供:TOKYO LEATHER FACTORY)加藤さん:
「例えば、持つ方向が常に同じだと、服にあたる部分だけ擦れて、革がテカテカしてしまうことがありますよね。そういう意図しない部分的な変化はできるだけ避けたいので、表に大きなポケットなどは極力つけずに、どちら側でも持てるデザインにしています。
また、金具が劣化してしまうこともあるので、表に出る金具も最小限にしています」
目指すのは、革が主役になるデザイン

細部へのこだわりはほかにも。革からパーツを切り出す裁断は、とくに大切にしている工程です。
加藤さん:
「豚革は部位によって表情の差が大きいため、適当に合わせてしまうと、ひとつのバッグでも途中から色みが変わって、違和感が出てしまうことがあるんです。
量産のため外注すると、そこまでこだわることはできず、パーツのバラツキは避けられません。そのため、裁断はすべて自分の手で行い、どのパーツを使うか指定しています」
▲離れた部位の革はパッと見てわかるほど、色みや傷のつき方など表情が異なります。また、目立つ傷は縫い代の部分にくるようにするなどの細かい工夫も。革のロス削減も考慮しながらパーツをとっていく作業は、まるで難しいパズルのようです。
▲刃がついた型を置き、機械でプレスすることで革が裁断されます。目指しているのは、「革が主役になるデザイン」。だからこそ、革という素材の良さを最大限発揮するための手間は惜しみません。
加藤さん:
「革本来の質感や風合い、美しい色合い、やわらかな表情が、そのままデザインの個性になるよう心がけています。
素材そのものの魅力を伝えることができてこそ、長く使っても飽きがこない、経年変化がたのしめるバッグになると思うんです」

豚革は日本が誇るエコ素材
墨田のタンナー時代から、主力素材は「豚革」です。
豚革は、食肉にするときの副産物。国内で自給できる、唯一の天然皮革なのだそう。豚肉を皮付きで販売するのが一般的な諸外国とは異なり、皮をとりのぞいて販売することが多い日本ならではのものです。

加藤さん:
「そもそも墨田が豚革の一大産地となったのは、荒川と隅田川に挟まれ水運の便がよかったこと、加工に必要な水資源が豊富だったことで、関東近郊の養豚場から原皮が集まるようになったから。
風土や暮らし方と密接に関わって、革産業は独自の発展をしてきたんです。国内でも、牛肉をよく食べる関西では牛革の生産が盛んですし、それぞれの産地にはそれぞれの歴史や技術、個性があります。
最近では、墨田で培った経験を活かして、日本各地のタンナーとも協業しながら、新しい素材開発にも挑戦していきたいなと考えています」
▲京都の伝統技法、墨流しで染めた豚革のお財布。ほかの産地や伝統技法とのコラボレーションでも革の可能性は広がります。革の魅力で新しい暮らしを提案したい
「革には本当に多くの種類があり、形にしたいアイデアや企画も数えきれないほどあります」と加藤さん。
今開発しているのは、撥水レザーを使ったバッグ。一般的な撥水加工は、使い続けると効果が薄らいでいきますが、染めの段階で加工することで、耐久性がぐんと高まります。
▲加藤さんが開発している豚革の撥水レザー。水がコロコロと転がります。
▲軽さや持ちやすさ、荷物の出し入れのしやすさなど、実際に使いながら、使い勝手を確認して完成させていきます。洗える革に、撥水レザー。「お手入れがしにくい」「扱いに気をつかう」そんな革のイメージをがらりと変えてくれる、トウキョウレザーファクトリーのものづくり。お話を聞いて、革製品がぐっと身近に感じられました。
加藤さん:
「洗える革のバッグは、発売以来たくさんのお客さまにご愛用いただき、リピートしてくださる方も多くいます。
『革とは思えないほど軽くて持ちやすい』『毎日使っても負担にならない』というお声もいただき、革のもつ魅力で暮らしが少しでも豊かになっていたら、とてもうれしいです。
素材開発から携わるファクトリーブランドだからこそできる新しい価値を、これからも提案していきたいです」

撮影/菊地和歌子
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- ブランド紹介
TOKYO LEATHER FACTORY
(トウキョウレザーファクトリー)
東京・墨田にあった、創業1948年のタンナーより事業を引き継ぐ。ファクトリーブランドとして2011年に「leatheria(レザリア)」立ち上げ、2018年に「TOKYO LEATHER FACTORY」としてリブランディング。革の開発から製品づくりまで一貫して手がけ、素材の新たな価値を形にするものづくりを続ける。
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