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エッセイスト・小川奈緒さん連載【だから暮らしはおもしろい】Vol.24 大人の片づけは、適量と循環を意識しながらゆっくりと
writer 小川奈緒、illustrator 小池高弘
家づくりや暮らしにまつわる多くの書籍を手がけ、音声メディアVoicyでも人気のエッセイスト・小川奈緒さんによる、毎日をちょっと楽しく、豊かにしてくれる連載コラム【だから暮らしはおもしろい 】。
毎月第1・3月曜日に更新中です!
片づけは「時間をかけて少しずつ」がいい理由
「スッキリ暮らしている人」としてメディアの取材を受けることが時々あるものの、近年は大がかりな断捨離はしておらず、その代わり、ちょこちょこと小規模な片づけをくり返しながら、モノの見直しを常に行なっている。
時間をかけてじっくり片づけるメリットは、一つのモノを手放すのか置いておくのか、瞬時に判断しなくていいところ。
すると片づけに対して精神的にも肉体的にも力む必要がなく、リラックスして取り組める。だから疲れないし、長く続けられる。
たとえば、キッチンの保存容器や調理道具を入れている収納を整理しようと思い立ち、いざ始めると、「これがなくなったら不便かも」と判断に迷うものが、いくつか出てきたとする。そんなときは、ひとまず保留して、すぐには捨てない。
そして数か月後にまた整理して、同じように迷ったら、そのときは捨てる。
前回迷って取っておいたものの、やっぱり出番はなかったという事実がある分、今度は迷わず手放せる。
そんなふうに何年もかけて、日常的に片づけているうちに、持ち物の量は少しずつ、少しずつ、全体的に減ってゆき、今ではミニマリストでもマキシマリストでもない、完全に自分基準の「ちょうどいい量」を保つことができている。
適量は年々変わっていく
わたしにとっての適量とは、「持っている分をすべて把握できて、それらを新鮮な気持ちでまんべんなく使える量」という意味。
ファッションもうつわも、いつも同じモノを使うのはつまらないと感じるから、おそらくミニマリストにはなれない。
けれど、触れてさえいないものがじっと収納の奥に居座っているのにも、モヤモヤする。
その感覚を基準にすれば、自ずと適量は決まる。
同時に、その適量も年々変わることを理解しておく。
暮らし方や働き方に合わせて服や靴のテイスト、必要な数だって変わるし、家族構成や食事のスタイルによって、使ううつわも変化する。
以前は趣味だったものが、いつのまにかそうでもなくなっていれば、そのための道具は不要になる。
常に「今」を見つめる目を曇らせずに、細かくアップデートをくり返すことが大切なのだ。
モノの一生のストーリーをなるべく美しくしたい
次に、モノを減らして適量に調整する際の心がけとして「なるべく捨てない」というものがある。
家からゴミ捨て場に持っていくのは最終手段として、その前に、できるだけ次の人に引き継ぐ、または別の用途で再利用して、とことん使いきって寿命を全うさせる、という意識。
日々のごはんづくりの食材も、冷蔵庫や食品収納の中をこまめに点検して、賞味期限前に使いきり、無計画に買い込むことは控える。
服や本は、気に入って買ったものはきれいに使い、出番が減ったら早めにメルカリに出す。
ただ自分の家がスッキリすればいいわけではなく、モノの一生にも思いを馳せながら、最後までなるべく美しいストーリーを描けたらいいと思う。 つい最近もベッドリネンを買い替え、古いリネンを洗って乾かし、数時間かけて細かく裁断して、そうじ用のウェスを大量につくったとき、「モノを最後まで使いきっている」という実感があった。
新しいものを買ったら古いものは手放し、適量を保つ。
そのときも、手放す=捨てる、ではなくて、次の舞台を用意して送り出すイメージを持つこと。
そんな片づけは、どのみち時間がかかる。
でも、引っ越しが迫っているわけでもない限り、急ぐ必要なんてないのだ。
ダイエットと同じで、ゆっくりじっくり減らすことで、体も暮らしも意識も、根本から変わってゆけるのだから。
作家プロフィール
小川奈緒(おがわなお)
エッセイスト、編集者
築47年の縁側つき和風住宅に暮らしながら、イラストレーターの夫・小池高弘と中学生の娘と暮らす。最新刊『すこやかなほうへ 今とこれからの暮らし方』(集英社)、近著『ただいま見直し中』(技術評論社)など著書多数。instagram:@nao_tabletalk
小池高弘(こいけたかひろ)
イラストレーター
のびやかで抜け感のある線画で、書籍や雑誌の挿画、オーダー作品などを手掛ける。小川奈緒との夫婦作品に『心地よさのありか』(パイ インターナショナル)、『家がおしえてくれること』(KADOKAWA)などがある。instagram:@takahiro_tabletalk