デザイナー・大内幸恵さん/昭和な賃貸住宅暮らしでも、セレクトショップのようにDIY

2025/02/27 公開 

デザイナー・大内幸恵さん/昭和な賃貸住宅暮らしでも、セレクトショップのようにDIY

writer 石川理恵

おしゃれの舞台裏であるクローゼットを拝見しながら、服づきあいについてうかがう企画。

第3回は、「&mili(アンド ミリ)」デザイナーの大内幸恵(おおうちゆきえ)さんの家を訪ねました。

自分のことは後まわし! クローゼット暗黒時代

▲夫、娘と3人家族の大内さん。

「自分のクローゼットを持っていない、暗黒時代があったんです」

「毎朝、とりあえず畳んでおいた服の中から、着られるものを探していました」

「自分のことを後まわしにしすぎて、『何が着たいか』もわからなくて」

……と、現在のすてきなクローゼットからは、想像もつかないようなお話しから、取材はスタートしました。

もともとデザイナーになるほど服が好きだったのに、出産後は仕事と育児の両立、転勤や引っ越しなどの環境変化でいっぱいになり、「汚れてもいい服」や「無難な色の服」を着ていたと、大内さんは振り返ります。

「そんな心の状態が、服の収納にも表れていたのでしょうね。夫のラックのすみっこを間借りしたり、取りあえず押し入れに突っ込んだり、適当でした」

▲押し入れの一角に服を詰め込んでいた頃。「引き出しの後ろに魔界ができていました」と大内さん。ハンガーにかける服は、夫のラックの左端に。(画像提供:大内幸恵さん)

バイヤーになったつもりで、私だけのセレクトショップに仕立てる

「クローゼットを見直すことは、自分の心を見直すことだった」と振り返る大内さん。自分を変えるには、いくつかの段階が必要でした。

最初のきっかけは、5〜6年ほど前に参加した、片づけのプロの自宅ツアーです。居心地よく整った暮らしぶりから刺激を受けた大内さんは、自己流でクローゼットを片づけますが、忙しい毎日の中できれいな状態は長続きしません。

片づけてはリバウンドを繰り返し、いよいよ一念発起したのは3年前のこと。

「ライフコーチが主催するグループワークに参加し、3カ月をかけて自分の心に向き合いました。必要なのは『やり方』ではなく、『自分がどうありたいか』のゴールを目指すことだったんです」

▲片づけにあたっては、生活デザイン研究室・はらむらようこさん、ライフコーチ・のむらななえさんの考えから、大きな影響を受けました。

まずは、どんな服を着ている自分になりたいか、どんなクローゼットならば毎日わくわくするか、イメージワークをしつつ、持っている服をすべて出して「いる、いらない」を選別しました。

その際に大切にしたのは「捨てる」にフォーカスせず、「本当に好きなものだけを残す」にフォーカスしたことです。

「ワークをするうちに、手放すことより、好きでもないものに囲まれていることのほうがもったいないと、心から思えるようになりました。私の『好き』のバロメーターは、アイロン掛けです。好きな服なら『はい、はい!』と喜んで掛けられるけれど、好きな服じゃないと面倒くさいからわかりやすいんです(笑)」

▲昭和に建てられた賃貸住宅でも、工夫をすれば憧れのクローゼットが実現。

つぎに向き合ったのは、クローゼットづくりです。好きな色の壁紙を貼り、ラック代わりに流木を吊し、手持ちの棚をペイントして憧れのイメージに近づけました。

「DIYの経験がなかったから、ちゃんとできるかどうか、いくら考えても予想がつきませんでした。だから、『失敗したらやり直そう』くらいの気持ちで、とにかく進めちゃいました」

▲流木はネットで探したもの。天井用の石膏ボードフックを付けて、吊しています。

▲靴下、インナー、エコバッグなどはカゴ収納。
▲シーズンオフの服は、布ケースひとつ分を、別の部屋の押し入れに収納。

好きな服だけを、重ね着しながらコーディネート


こうして完成した大内さんのクローゼットには、いまも「好きな服だけ」が並んでいます。刺繍が施されたワンピース、色にニュアンスのあるニットやパンツなど、手にするたびに「美しいな、愛しいな」と思えるものばかり。

「重い服が苦手だから薄手の服が多いけれど、インナーを重ねたり、巻きものを合わせたりしています。だいたい3パターンぐらいのコーディネートを、順番に着ているようなローテーションです」

▲フランスのアンティークのワンピースは、ユニクロのカシミヤ入りインナーを合わせて、通年着ています。
▲襟のかわいいブラウスは、ベストや巻きものを合わせて暖かく。
▲薄手のコートはナイロンで風を通さないから、薄手のダウンを合わせれば真冬でもOK。

「服づき合いは、人づき合いに似ている」と語る大内さん。手に入れたばかりの着はじめの頃は、「どう着ようかな?」と合わせるために気持ちを向けたり、汚れがついてもすぐに落としたりするけれど……。

「自分にとって、その服の存在が当たり前になってくると、ほつれや毛玉があっても気にならなくなって、ついつい手入れを怠ってしまう。気づいた時にはもう手遅れで、元には戻せなくなっている。

家族や親しい人たちとの人間関係と一緒で、慣れてきてからも心を込めることを大切にしたいと思っています」

▲バッグはアクセサリー感覚で持ちます。夏は「フリルがかわいい」カゴバッグを、冬は「肩にかけた時にリボンがアクセントになる」手作りバッグを愛用。
▲美しい刺繍が目をひくブラウス。じつは、着るのではなく眺めるために手に入れたもの。「クローゼットがより自分の好きな場になるように、目に付くところにディスプレイしています」

片づいたら心が軽くなり、好きなものへの思いが戻ってきた


クローゼットを片づけて心が軽くなったら、「何かやりたいな」という気持ちがむくむくわいてきて、大内さんは自身のハンドメイドレーベル「&mili」をスタートさせました。

「出産後、私がもっとも『おしゃれを忘れていた』時期に、夫がヘアバンドをプレゼントしてくれたことがあったんです。それひとつで、すごくうれしい気持ちになったことを思い出して、ヘアバンドをつくりはじめました。いずれは服もつくってみたいです」

撮影/菊地和歌子
取材・文/石川理恵

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プロフィール

大内幸恵(おおうちゆきえ)

デザイナー

ヘアメイクアーティストの夫、小学生の娘と、古い賃貸一戸建てに暮らす。子ども服ブランド、ブライダル関連のデザイナーを経て、結婚、出産。現在はハンドメイドレーベル「&mili」を立ち上げ、ヘアバンドやバッグをデザインしている。Instagram:@happy_yukie22

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