writer 石川理恵
おしゃれの舞台裏であるクローゼットを拝見しながら、服づきあいについてうかがう企画。
第3回は、「&mili(アンド ミリ)」デザイナーの大内幸恵(おおうちゆきえ)さんの家を訪ねました。
自分のことは後まわし! クローゼット暗黒時代
▲夫、娘と3人家族の大内さん。「自分のクローゼットを持っていない、暗黒時代があったんです」
「毎朝、とりあえず畳んでおいた服の中から、着られるものを探していました」
「自分のことを後まわしにしすぎて、『何が着たいか』もわからなくて」
……と、現在のすてきなクローゼットからは、想像もつかないようなお話しから、取材はスタートしました。
もともとデザイナーになるほど服が好きだったのに、出産後は仕事と育児の両立、転勤や引っ越しなどの環境変化でいっぱいになり、「汚れてもいい服」や「無難な色の服」を着ていたと、大内さんは振り返ります。
「そんな心の状態が、服の収納にも表れていたのでしょうね。夫のラックのすみっこを間借りしたり、取りあえず押し入れに突っ込んだり、適当でした」
▲押し入れの一角に服を詰め込んでいた頃。「引き出しの後ろに魔界ができていました」と大内さん。ハンガーにかける服は、夫のラックの左端に。(画像提供:大内幸恵さん)
バイヤーになったつもりで、私だけのセレクトショップに仕立てる
「クローゼットを見直すことは、自分の心を見直すことだった」と振り返る大内さん。自分を変えるには、いくつかの段階が必要でした。
最初のきっかけは、5〜6年ほど前に参加した、片づけのプロの自宅ツアーです。居心地よく整った暮らしぶりから刺激を受けた大内さんは、自己流でクローゼットを片づけますが、忙しい毎日の中できれいな状態は長続きしません。
片づけてはリバウンドを繰り返し、いよいよ一念発起したのは3年前のこと。
「ライフコーチが主催するグループワークに参加し、3カ月をかけて自分の心に向き合いました。必要なのは『やり方』ではなく、『自分がどうありたいか』のゴールを目指すことだったんです」
▲片づけにあたっては、生活デザイン研究室・はらむらようこさん、ライフコーチ・のむらななえさんの考えから、大きな影響を受けました。まずは、どんな服を着ている自分になりたいか、どんなクローゼットならば毎日わくわくするか、イメージワークをしつつ、持っている服をすべて出して「いる、いらない」を選別しました。
その際に大切にしたのは「捨てる」にフォーカスせず、「本当に好きなものだけを残す」にフォーカスしたことです。
「ワークをするうちに、手放すことより、好きでもないものに囲まれていることのほうがもったいないと、心から思えるようになりました。私の『好き』のバロメーターは、アイロン掛けです。好きな服なら『はい、はい!』と喜んで掛けられるけれど、好きな服じゃないと面倒くさいからわかりやすいんです(笑)」
▲昭和に建てられた賃貸住宅でも、工夫をすれば憧れのクローゼットが実現。つぎに向き合ったのは、クローゼットづくりです。好きな色の壁紙を貼り、ラック代わりに流木を吊し、手持ちの棚をペイントして憧れのイメージに近づけました。
「DIYの経験がなかったから、ちゃんとできるかどうか、いくら考えても予想がつきませんでした。だから、『失敗したらやり直そう』くらいの気持ちで、とにかく進めちゃいました」
▲流木はネットで探したもの。天井用の石膏ボードフックを付けて、吊しています。
▲靴下、インナー、エコバッグなどはカゴ収納。
▲シーズンオフの服は、布ケースひとつ分を、別の部屋の押し入れに収納。片づいたら心が軽くなり、好きなものへの思いが戻ってきた
クローゼットを片づけて心が軽くなったら、「何かやりたいな」という気持ちがむくむくわいてきて、大内さんは自身のハンドメイドレーベル「&mili」をスタートさせました。
「出産後、私がもっとも『おしゃれを忘れていた』時期に、夫がヘアバンドをプレゼントしてくれたことがあったんです。それひとつで、すごくうれしい気持ちになったことを思い出して、ヘアバンドをつくりはじめました。いずれは服もつくってみたいです」