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フラワーデザイナー・市村美佳子さん/髪も生き方も、大切なのは自分のものさしを持つこと

2026/04/28 公開 

【髪とおしゃれ】 フラワーデザイナー市村美佳子さん/髪も生き方も、大切なのは自分のものさしを持つこと

writer NATULAGI編集部

「コロナ過をきっかけに染めるのをやめたんです」そう教えてくれたのは、フラワーデザイナーの市村美佳子(いちむらみかこ)さん。

大きな窓から広い空を望む、南青山のヴィンテージマンションの一室が、アトリエ兼ご自宅です。そこにいる市村さんは、自然体なのに格好良く、柔和でありながら凛とした空気をまとう女性。

無造作に結んだ白髪の、その素敵さの理由が知りたくて、今回は市村美佳子さんに髪とおしゃれにまつわるお話をうかがってきました。

コロナ過を機にシルバーヘアに

「若いころから白髪は多くて、自宅でヘナ染めをしていたんです。でも数年前、コロナが流行してしばらく人と会う機会がなくなったとき、もう染めなくてもいいかなってふと思って」

現在62歳の市村さん。50代半ばで白髪を染めない選択というのは、はたから見ると、大きな決断です。でも市村さんは「なんにも気にしなかったんだよね」と、いたって自然にこたえてくれました。

ヘアケア方法をうかがうと、「シャンプーは2日に1回」「美容室は半年に1回」「前髪は自分で切る」など清々しいほど。

聞けばご実家は美容室だったそうですが、自身はただ座っている時間がとにかく苦痛で、なるべく美容室に行かないように過ごしてきたそう。

「母も姉も美容師なんですが、私は本当に髪については無頓着で。ドライヤーもしてないって前に姉に言ったら、怒られちゃいました(笑)

白髪になってからはボサボサだとちょっと残念な感じになっちゃうから、今は、毎回ドライヤーをして、たまにはオイルを塗ることもあります」

▲ずっと愛用しているヘアオイルは「DERMED」のもの(右)。「recipi」のジンジャー・ビー・バーム(左)は、天然由来の香りがお気に入り。

市村さんは数年前から、南青山と葉山の二拠点生活。週末はおもに葉山の家で、海水浴を楽しんだり、山の草花と触れ合ったりして過ごしています。

「葉山では海に入ることもあり、結べるとラクなので、長さは大体いつもこのくらい。とにかく楽ちんがいいんです」

気持ちを大事にしたいのは、弱い自分を知っているから

市村さんがここまで「心地よさ」を優先するのには理由がありました。

「40代に入った頃かな、すごく落ち込むことが続いて、気づいたんです。私はたぶん心が強くないんだって。

我慢がきく人っているじゃないですか。例えば私の母なんかもそう。どうしてそんなに頑張れちゃうのって感心するくらい。でも私はそうじゃなかった。

昔からどうしてこんなに悲しくなったり落ち込んだりするんだろうって不思議に思っていたんです。不快なことを感じ取りやすくて、落ち込むとすごく深く落ちて、しょんぼりしてしまう」

「風邪を引きやすいとか、暑さ寒さに弱いとか、人によって違うように、『体は丈夫だけど心はわりと弱い』というのが自分のキャラクター。

あんまり下まで落ちちゃうと上げるのが大変なので、そこまでいかないようにケアが必要で、そしてケアの方法は、みんな一緒じゃないんですよね。

お腹が弱い人がやさしい食べ物を選ぶように、心が弱っちい私は、自分の気持ちをできるだけ我慢させないものを選んでいるんです。自分の弱さを自覚してからは、なんとなく生きやすくなりました」

よろこぶ心を感じるために

市村さんは、共通の友人を介して知り合った、ディレクターの滝本玲子さんとともに、2012年にリバティプリントやヴィンテージの布でエプロンを作る「エプロン商会」を、そして2022年には古い着物の布を使って洋服を作る「around」を立ち上げています。

じつは市村さん、エプロン商会をはじめる少し前の40歳を過ぎた頃、フラワーデザイナーの仕事に行き詰まりを感じていたそうです。

花の世界では当時、プリザーブドフラワー(長期保存できるよう加工を施したお花)が流行中。心ではどこかひっかかるものを感じながら、依頼されたプリザーブドフラワーの仕事を続けていたところ、そのうち花をいけること自体、楽しいと思えない心境に陥っていたといいます。

「勇気を出してその仕事を辞めたものの、気持ちは落ちたまま。もう飽きちゃったのかな、と思うほどでした。

それで、好きなことをして心のリハビリをしようと思ったときに、浮かんだのが『エプロン』。美容師の母は身長が高くて既製品では合うものがなく、母に頼まれてエプロンをつくっていたときの楽しさが心に残っていたんです。

一人ではじめようと思い玲子(滝本玲子さん)に相談したところ、『一緒にやってもいいよ』と言ってくれて、すごくうれしかったのを覚えています」

「生地見本を見ているだけで、ものすごく可愛くて、一生飽きない! と思いながらエプロンをつくっていたら、今度は不思議と切り花も楽しくなってきたんです。

人って器用じゃないんですよね。嫌なことを感じないで、好きなことだけ感じることは多分できなくて、両方感じないと大事なものも感じられなくなっちゃう。

私の場合、本当は苦手だったことを感じないように我慢しているうちに、好きだったことも感じられなくなっていたみたいです」

▲「白髪になってから、明るい色の服も手にとることが増えました」リバティ生地のブラウスは、同じマンションにアトリエを構えるスタイリスト・小暮美奈子さんのブランド「days」のもの。
▲いつも身につけているアクセサリーは、尊敬する先輩のひとり、ユキ・パリスさんのお店で選ぶことが多いそう。

ルーツは母の暮らし

大学卒業後、ロイヤルコペンハーゲンに就職し、店内の装花に携わったことから、花の世界へ。ロンドンに渡って花を学び、キャリアを形成してきた市村さん。

海外での暮らしが大きく影響を与えたのかと想像し、そのセンスをつくったものをうかがってみると、意外な答えが返ってきました。

「私の選ぶもの、好きなもののルーツは母の暮らしです。

父親が単身赴任で不在がちだったため、母は美容師の仕事、家のこと、姉と私の子育てを一手に担っていました。

そんな忙しい生活の中でも、家には欠かさず花が飾られていたんです。毎晩、家中の花を回収して深水につけて、翌朝元気になった花をまたいけ直して。そんな母の姿を見ながら毎朝ごはんを食べていました。

子どもの頃に着る洋服も、布を選んでオーダーしたりして、そんな暮らしがすごく楽しかったんです」

「成人式の着物も、母が私に選んだのが沖縄の紅型(びんがた)という伝統的な染めもので、当時は人と違うことに戸惑いもあったけれど、今思うと素敵でした。

『around』というブランドでは着物を解いて洋服をつくっているのですが、銘仙のモダンな柄のアンティークの着物に出合い、なんてかわいいのって思っていたんです。その後、実家の片付けをしていたら、母がお嫁に来たときのお布団の布が出てきて、それが銘仙のもので、びっくりしました。

そういう母の、ピッときたものを寄せ集める力みたいなものをとても尊敬していますし、大人になってからいろいろ知るほどに、この人のセンスを引き継いでいるなと感じます」

自分のものさしで、心地いい方へ

部屋の一角に並んだ棚は、それぞれ別の古家具屋でみつけた北欧、アメリカ、山形のもの。天井には形も大きさも異なる多種類のカゴがずらり。市村さんのお部屋には、時代もテイストもMIXされた物が並んでいます。いわく「バラバラだけど、それが好き」なんだそう。

「どんなに美しいインテリアでも、自分がそのまま真似して気持ちいいかといえばそれは違うように、自分の気持ちよさを知るって、すごく大事ですよね。

『ものさし』が世間だったり流行だったり、いろいろなものに乗っ取られがちだけど、それだとどこかで辛くなってしまうし、ハッピーじゃないと思うんです」

人より少しだけ弱い心や、幼少期に見ていた母の姿、エプロンにときめく気持ちも、すべてが市村さんのものさしをつくるもの。自分のものさしで測ってみれば、自ずと優先するものがみえてくるのだといいます。

「カラー剤の匂いや座っている時間を我慢するより、染めずにいるほうがラクで楽しいから白髪は染めない、乾かす時間も苦痛なのでシャンプーは2 日に 1回にします、とかね。

髪を染めるか染めないかも、どんな選択肢だって、結局、自分の中のものさしにしたがえばいいのかなって思うんです」

撮影/菊地和歌子

プロフィール

市村美佳子

フラワーデザイナー

1963年、山形県生まれ。「緑の居場所デザイン」主宰。南青山のアトリエでは、不定期で花教室も開く。滝本玲子さんとともに、アンティークの布を使ったエプロンのブランド「エプロン商会」や、ファッションブランド「around」を立ち上げる。
公式サイト:https://www.midorinoibasho.jp/

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